表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/141

きゅう。

 

 

 午前八時というのは、休日の朝としては早いと思う。せめて九時にしろよ。何で休日に平日と同じ時間で起きなきゃいけないんだ。休みの日くらい惰眠を貪らせてくれよ。


 不平たらたらながらもちゃんと余裕をもった時間に起床し、朝食をすませ、軽くシャワーを浴びて、洗顔や歯磨きを終えて。


 しかたないさあ行くかと靴を履いたところで、呼び鈴が鳴らされた。


「………」


 誰かの訪問の予定はない。

 今どき、予告なく誰かが訪れることはまずない。だから、住居に設置された呼び鈴などほとんどあってないようなものだ。

 そのはずなのだが。


「………」


 昨日の今日である。さすがに早見も忘れてはいない。いや、実を言うと今の今まですっかり忘れていたのだが、完璧に忘却して超安眠だったのだが、ここにきてさすがに思い出した。


 ……昨日の連中の関係者か?


 いやいや、と否定する。

 違う、という確証があるわけではない。が、


 昨日あれだけ軽くやられておいて、二回目も御丁寧に玄関から来るわけがないよなあ……


 思いつつ手を伸ばして壁に埋め込まれている操作盤をいじる。応じて眼前に画面が展開、戸の前を映し出す。


「………?」


 ……誰だ?


 そこにいたのは、全く覚えのない人物だった。


 少女。


 中学生くらいだろうか。黒髪をボブカットにした少女が、無表情にこちらを見ている。

 ……こちらを見ている?

 この映像は、別にカメラか何かで撮影されているわけではない。とはいえどの家も規格はおよそ同じであろうから大体の位置を決め打ちすることはできるだろうが、

 なんか、目が合ってるような気さえするんだが。

 昨日の連中の関係者ではない……だろうか。こんな少女まで利用しているとすると思った以上にヤバい機関だったのかもしれない。下手に相対せず全力で逃げるべきだったのだろうか。いや、そんなことよりも現状、目の前の状況をどうしよう。自分は今外出しなければならないのだが、戸の前を謎の少女Xに塞がれているとなると、


……窓から?


「そうしよう」


 即断。身を翻し靴を脱ぎにかかる。


 この部屋はおよそ60階にあるので普通に飛び降りれば死ぬしかないだろうが、それなら普通に飛び降りなければいいのだ。科学的に飛行系の技術は普及していないが、早見は個人的にそれができる。隣人などに見られると多少面倒であるが、この際仕方ない。適当に誤魔化そう。なに、別に窓から出るのは初めてでもない。正面から出て面倒事に巻き込まれるくらいなら、裏から出て時間通りに姫森に会うのが上策だ。なにより姫森に怒られたくない。あれでいて、姫森は意外としつこいのである。


 なにより、あの目。

 画面の向こうからこちらをまっすぐに見ていた、無表情に見開かれていたあの少女の目。

 感情も感動もない、生きているという質感すらない、深淵を覗き込んでいるかのような、得体の知れない空洞のような目。

 まるで人形のような目。

 いや……今どき、自動人形だって多少は感情的で、あそこまで“何もない”目をしてはいない。

 あれは間違いなく厄介事に繋がっている。

 くわばらくわばら。


「触らぬ神になんとやら、とね……」


 脱いだ靴を手に持って、さあ窓へ、


「ごちゃごちゃ言ってねーでさっさと開けろよ」


 玄関がぶっ飛んだ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ