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世界は不思議に満ちている  作者: FRIDAY
天空都市
89/141

はち、きゅう。

 

 

「より正確に言い表すならば、この身体のわたしは“わたし”ではない。この身体はあくまでも自動人形を遠隔操作しているに過ぎないからね。しかしよくできているだろう? しばらく前にここへ呼んだ科学者に協力してもらったのだ。彼は実に面白い男だったよ。今ではもういないがね。


「歴史の話に戻ろうか。


「“科学”と“幻想”が滅びたことで、わたしは考えた。


「先の戦争は、“科学”と“幻想”がともに存在していたからこそ起こってしまった悲劇だ。そもそも“科学”が生まれなければ、あるいは“幻想”など存在していなければ、そのようなことは起こらなかったに違いない。


「ならば、どちらか一方にしてしまえば、あの悲劇は繰り返されないだろう。


「そしてわたしは“科学”側の存在だ。選択するなら“科学”しかない。必要な行動は、“幻想”の駆逐だ。


「だがそれは、皮肉なことに先の戦争でほとんど達成されているといってもよかった。何せ、“幻想”そのものである“魔法使い”も“異族”も既にこの世界にはいないのだからね。残っているのは、科学者でも魔法使いでもない人間だけだ。


「ならば、“科学”の種を撒くだけでいい。その種がやがて芽を出し、成長していけば、やがて自分たちで勝手に発展していってくれる。なけなしの“幻想”も残さず滅ぼすことだろう。


「そのための環境作りとして、かつてそのような“幻想”が存在していたことするら不確かにしておく。伝説めいていて、曖昧な、事実とは思えないほどに薄めて置く。


「戦争の事実も消し去るために、わたしは戦争終結からおよそ百年で、荒廃した世界を完全に復興させ、前時代程とは言わないまでも“科学”を発展させ、同時にゆっくりと、それらに対し“興味も疑問も持たないように”、人類の意識を操作し続けた。


「空白の百年、というわけだよ。


「そうした上で、わたしはただ待っているだけでいい。――そのはずだった。


「わたしの予想に反して――“幻想”は、しぶとかった。


「“魔法使い”でも“異族”でもないにも関わらず、一向に“幻想”を失わない者たちがいた。


「そう、小説家だ。


「彼らは、わたしの処置によって“幻想”の実在など知らないはずなのに、まるで実際に見聞きしているかのように“幻想”を描き出した。


「彼らによって、人類はなかなか“幻想”を失わなかった。


「ならばどうするか――わたしは考え、実行した。


「意識結界、という技術があるだろう。設定した特定の事象から、無関係な周囲の意識を逸らすという技術だ。


「これの方向性を逆にするのだよ。


「するとどうなるか? ――逸らさずに、仕向ける。“小説など思いつかないように”、“新たな物語の発想など起こらないように”、人類の意識を改変し続けた。


「もともと、人類の意識を前時代や空白の百年へ向けないために既に使用していた技術だ。実行すること自体は難しいものではない。長い時間をかけることで、遺伝子レベルにまでその改革は及ぶ。


「そしてこの目論見は、ほぼ完璧に進行していた。およそ千年をかけてようやく、とうとう完全に“幻想”を駆逐し、残すは千年に及び小説家たちが遺した遺物のみ、となった。


「――そのはずだった。


「君たちが現れるまでは、ね」

 

 


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