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はち、はち。
「――成程ね。それなら確かに、いくつかのことには矛盾なく説明がつく」
一通りの話を聞いて、裁縫はそう口を開いた。
「でも、それが真実である、という保証はどこにあるんだい? その事実を示す文献も、当事者も何ひとつ存在していないのに、どうやってそれが事実だと信じられる?」
裁縫の疑問を聞いて、男は嗤った。堪え切れなかった、というように。
「……何がおかしい?」
「いや、さすが、科学的なものの見方だな、とそう思っただけだよ、科学の娘。そしてその考え方は概ね正しい。その問いに対する答えも簡単だ」
男は、何でもないことのように続けた。
「その当時を示す資料が何ひとつ残っていないのは、全てわたしが処分したからなのだよ」
は? と早見は不可解の声をもらす。だが裁縫を見ると、裁縫は今まで見たことのない表情を浮かべていた。
驚愕。そして、
恐怖。
「――まさか、キミは」
「そうとも。御明察、だ――」
冷たい、酷く冷たい笑みを顔面に張り付けて、男は言う。
「わたしが、その前時代における“最後の希望”であり、この天空都市そのものだからなのだよ――」




