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世界は不思議に満ちている  作者: FRIDAY
天空都市
82/141

はち、に。

 

 

「おいはやみん、いつまで寝てるんだ。さっさと起きろよ」


 蹴られた。

 デジャブ。

 だが今回の早見は覚醒と同時に跳ね起きた。


「はっ、ここは――俺の部屋! まさかの夢オチ!?」

「活字媒体で絵がないからって、強引に夢オチに持っていくなよ――天空都市だよ」


 その通りだ。見回せば街があり、見下ろせば石畳、見上げれば空がある。全くもって、早見の部屋などではない。


「って、え、天空都市? 着いたのか?」

「ああ、キミの自殺と見紛うばかりの見事な突貫のお陰でね。――いやはや、あの瞬間ばかりは、さすがのボクも死ぬかと思ったよ」


 ため息まじりに裁縫が言う。わずかに疲れの垣間見えるその表情から、確かに裁縫も心穏やかにはいられなかったらしい。


「……あ、姫森と水澤さんは?」

「無事だよ。キミの後ろだ。さすがにふたりとも気絶してる」


 見れば、確かにふたりは早見の後ろで、寄り添い合うようにして気を失っていた。裁縫が優しい手つきで揺すると、ん、と呻き声をもらしつつ水澤が気が付いた。


「――あ、く、頭が痛い……」

「急に動くとそうなるから、もう少し安静にしていた方がいい」

「……何か、俺との扱いの差が酷くないか? 俺、蹴られてた気がするんだけど。踏まれてた気がするんだけど」

「気のせいだよ。構成成分の90パーセントが優しさでできているこのボクが、キミを足蹴になんてできるわけがないじゃないか」

「ちなみにその構成成分、残りの10パーセントは何でできてるんだ?」

「シャーデンフロイデ」

「それってつまり“ざまァ見ろ”とか“メシウマ”とかってことだよな!」


 裁縫は姫森も同じように揺すってみるが、姫森は完全に目を回しており、一向に目覚める気配がない。

 早見は、なんとなく空を見上げてみた。距離的に、地上で見ていた空よりは天頂に近いはずだが、空の果てはやはりどこまでも果てしなく遠い。

 穏やかな風の吹くそこは、先程までの死闘の喧騒が嘘のようになく静まり返っている。

 静まり返っている。

 ……なんだか、静かすぎやしないか?


「キミも気が付いたかい、はやみん」


 姫森を起こすことを諦めた裁縫が、早見の方を見た。


「……ああ」


 早見も、周囲を注意深く見回しながら頷く。

 四人が不時着したのは、どうやら天空都市上の街都の一角らしい。脱色したような色の無機質な建物が、淡々と並んでいる。

 だが、音がない。

 不自然に、静かすぎる。

 もっとはっきりと言うのなら、


 人の気配が全くない。


「――いや、そもそもそのつもりでここに来たんだから、そうでなけりゃ困るくらいなんだけどさ」


 早見はつぶやく。

 人の気配はない。ないのだ。

 それなのに――何だ、この圧迫感は。

 誰かに常に見張られているような怖気おぞけは。


「とにかく――もう焦ることも急ぐこともないだろう」


 姫森を起こすことを諦めた裁縫が立ち上がり、こちらを見た。


「折角ここまで来たんだ。事のついでに、調査を兼ねた観光と洒落込むとしよう」

 

 


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