ななじゅうはち。
「抜けたよはやみん。弾幕戦は終了だ。防空圏突破まで残り200メートル」
ここに及んでも淡々とした裁縫の言葉に、早見ははっと我に返った。
気が付けば、全空間を縦横無尽に支配していた光と歪みは、嘘のように消え失せていた。
不気味なほどの、静寂。
「恐らくすぐに第二層――超級の光子砲剣が来る。油断はしないで」
裁縫の言葉に、早見は頷き、顎から滴る汗を拭った。気が付けば、全身が汗まみれになっている。息もすっかり上がっていた。だが視線から力が失われることはない。
ちなみに、水澤は辛うじて意識を保っているが、姫森は序盤で完全に目を回していた。何せ、天地不覚のフルシェイクだったのだ。むしろ意識を保っている水澤に驚くべきである。まあ、とはいえそれでも水澤も、
「――うぇ、吐きそう……」
と、顔を青くして口許を押さえているが。
「――来る」
小さくつぶやくように言って、早見は身構えた。
言下に、天空都市の四方と上下がひときわ強く閃き、
まるで柱のように太い光が、遥か彼方まで雲を切り裂いて走った。
そして、その光は消えない。
そのうちのひとつを寸前で回避した早見は見る。
光が、動く。
「それだけじゃない、はやみん! 全ての砲剣が同時に来るよ!!」
裁縫の声に、はっと早見は顔を上げ、眼前にまで迫っていた光柱をぎりぎりで回避した。
それでも結界にわずかにかすめて、一瞬それが破壊寸前まで赤熱する。
「――ぐ」
小さく、早見は詰まったものを吐き出すように喉を鳴らした。
ぴ、とわずかではあるが、早見の手元に血塊が散る。
初撃でこれか。
あとどれだけ前に出れば、これを抜けられるのだ。
いや、そもそも、抜けられるのか?
「――抜けてやるさ」
低い声で言って、早見は加速する。
光柱は、その巨大さに比さずかなり速い。それも、間断なく次々と波状的に襲い来る。
隙が無い。
だからどうした。
抜けるか、落ちるかの二択だ。
ならば、考えるまでもなく選べるだろう。
行け。
行け。
行け。
前へ進め。
「ただ前だけを見て進め」
多少かすっても立ち止まるな。
そんなところに当たり判定はない。
直撃しなければ気にするな。
「かわし続ければ当たらない」
望むは前進。
担うは加速。
何も遮るものはない。
「何にも邪魔されることはない」
前へ。
前へ。
前へ行け。
「ただ前だけを見据えて走れ……!」




