ななじゅうなな。
加速する。風が、風防となる結界でも殺しきれないほどに鳴る。
「防空圏まで、残り3000メートル」
揺れる。
「残り2000メートル」
ぐんぐんと、みるみるうちに天空都市が近づいてくる。
「残り1000メートル」
既に音速など越えている。
「残り500」
裁縫のカウントも遠く聞こえる。
「残り250」
早見は、ただ前だけ見据えて加速する。
「残り100」
ぐ、と絨毯に指を立て、歯を食いしばり、
見る。
「――突入!」
裁縫の言葉と同時に、天空都市の表面のあらゆるところがちかちかと点滅した。
それを認識した瞬間には、早見は全身はそのままに空中で絨毯を側転させている、
「揺れるぞ!」
「もう揺れてる~!!」
悲鳴を上げる姫森に、舌を噛むから口は閉じてろ、と叫び返しながら、早見はさらに荒々しく絨毯を操縦する。
もはや完全に防空圏内だ。次々と放たれる光撃や重力弾に加え、一度かわした攻撃すらも反転して背後から襲ってくる。
裁縫が展開してくれている端末を横目に、早見はそれを全て全力で回避し続ける。だが怒涛の攻撃に終わりもなく休みもなく、空間に対する光撃の閃光と重力弾の歪みの密度が増すばかりだ。
それでも、早見は止まらない。
一瞬たりとも。
止まれば撃墜される。
だがそれだけでなく、今の早見の中に、“停止”に至る思考はなかった。
わずかに空間に開いた隙間にねじ込むようにして絨毯を滑らせる。追尾してくる光弾を、ロールで回避して正面から迫る重力弾にぶち当てる。派手に爆発する時には既に絨毯はそこから離脱、次の回避動作に入っている。
死角から迫る弾に胃が冷える。
それでも難なくロールでかわす。
背後からの攻撃にも、上下に急運動することで凌ぐ。
隙を見つけて無理矢理にねじり込む。
多少かすっても恐れるな。
直撃しなければノーカンだ。
推進力は早見の魔法だ。急停止も急発進も、上下左右に直角に移動することも可能だ。
抜けることは、不可能ではない。
音が消える。
揺れが消える。
感覚は研ぎ澄まされ、
前に進むことだけを念じ、
攻撃を見極め、
前に出る。
前に出る。
前に進む。
前に行く。
あとどれだけだとか、そういったことにすら考えが及ばない。
終わりの見えないことにすら、何も感じない。
焦りも、恐れも、ない。
ただ眼前に襲い来る一撃の怒涛を凌ぎ、前進することだけを望む。
目を見開け。
歯を食いしばれ。
隙を見落とすな。
食らいつけ。
速度を落とすな。
回転を緩めるな。
忘れるな。
前を望み続ける限りは、
「天は高く地は遠く、一瞬は永遠だ……!」
光と歪みに、いつしか早見は自ら躍り込んでいく。
そして、
抜けた。




