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ななじゅうご。

 

 

 西京から東都までの距離は、400キロもない。


「だから、東都に着くまでには、それほどの時間はかからないだろう。問題はその後なんだ」


 絨毯に座りながらも、端末を操作している裁縫は言う。


「この速さなら大した時間はかからない。追手の攻撃を受けることも恐らくない。天空都市の防空圏に入ってさえしまえば、手出しはできないからね」

「で、防衛システムの攻撃とやらを受けるわけか」


 遥か前方を睨み付けながら、早見が言う。


「実際どんな攻撃なんだ? 防衛率100パーセントって言われても、いまいちぴんとこないんだが」


 裁縫は頷きながら、早見の横にそれを説明する画面を開いた。


「――とは言っても、実のところはっきりわからない、というのが現状だ」

「おい」

「何せ歴史上、防衛システムの第一層を通過できた者が一人もいないのでね」

「第一層、ということは」


 後ろに座っている水澤が声を差し込んで来た。水澤は姫森を支えるようにしている。今度こそは酔うわけにはいかない、と構えていた姫森だったが、やはり免れなかったようだ。前回と同じく、空を見上げてぽかんと口を開けている。


「第二層や三層があるということか?」

「そうだね。ボクだってただ“わからない”で済ませるわけがない。ちゃんと調べたさ。例によって統合情報中枢にハッキングして調べてたら、かなり古い記録だが天空都市の防衛システムについての記述を発見した」

「……そのハッキングって、大丈夫なんだろうな」

「大丈夫だよ。もしもハッキングに気付かれれば、中枢がシステムダウンするプログラムを組んでいる」


 さらっと恐ろしいことを言う裁縫。統合情報中枢がシステムダウンするということは、それこそ世界が停止するということに等しい。だからこそ中枢には強力なファイアウォールが組まれているはずなのだが。


「まあそれはとこかく、その記述によると、こうなっている」


 早見の横の画面に、幾本かの円が表示される。


「基本的な迎撃システムは、全て光子砲と重力砲だ。ただこれが一般のそれらと違うところは、その砲門のひとつひとつに強力な追尾機能が備わっていることだ」

「つまり?」

「曲がる。何度回避してもどこまでも追ってくる」


 うえ、と早見は苦い顔をするが、裁縫は構わない。


「それらの砲門から、毎秒5000発の光弾と重力弾が発射される。これが第一層」

「それは確かに、誰にも突破できないわな……」

「それから第二層。恐らく、第一層でけりがつかないときに発動するんだろう。――これもなかなかえげつない攻撃でね。基本は光子砲なんだけれど」

「基本ってことは……応用が利いている、と」


 裁縫は頷いた。端末を操作すると、画面にシミュレーションが流れる。

 それを見て、さらに早見は苦り切った顔になった。


「射程1キロの光子砲を継続して発射し続け、それを振り回す。するとどうなる?」

「砲剣だな。それもとてつもない規模の」


 後ろから覗き込んでいる水澤の答えに、裁縫は頷いた。


「その砲門は、どうやら東西南北天地に六ヶ所。ただし、全ての砲門が全空域をカバーできる」

「敵なしだな……その上で、まだあるのか? 用心深いにもほどがあるだろ……」

「あとひとつある」


 うへえ、と早見は舌を出すが、裁縫は無表情だ。


「だけど、すまない。これだけはわからない。だからその場での即興になるね」

「……あー、まあ、そこまでわかっていれば上々、なのかな。それよりさらに酷い防衛システムってことだろ。考えたくもないが……しかし」


 もはや何とも言えない表情の早見が、ぼやくように言う。


「いったい何に備えて、そんなに念の入った防衛システムを造ったんだ? これまでも第一層までで十分だったんだろ? 何の侵入を恐れてたんだよ」


 早見としては、別に何てことのないぼやきの延長の台詞だったのだろう。

 だが、それを聞いた裁縫が、ふと何かを考え込む表情になった。


「ああ、確かにそうだね……これほどまでの防衛システムを組む必要がどこにあったんだ?」

「あ? 裁縫?」

「これは盲点だったな。天空都市は、何を恐れていたんだ? いや、何と戦うつもりだったんだ……?」


 裁縫は、どうやら自分の考えに没頭していて声が聴こえないようだ。

 やれやれ、と裁縫から前方へと視線を移した早見が、お、と声を上げた。


「見えてきたぞ――天空都市だ」

 

 


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