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ななじゅうに。


 

「この数百年と言うもの、全く新しい開発というものはひとつもない。そのことは皆も既に知っていることだ」


 裁縫は言う。


「あるのは既存のマイナーチェンジで、よくても改良がせいぜいだ。――そして、その一切は天空都市発祥ではないんだよ」

「……天空都市は何もしていない、と?」


 口を挟むまい、としていた早見だったが、とうとう我慢できずに口を出してしまった。だが今度の裁縫は割りにあっさりと頷いた。


「そうなるね。この数百年、天空都市はただ在るだけだ。科学の象徴としてね。――つまり、原因はわからないが、今現在天空都市は機能していないと考えられる」

「本当にか? それだけの理由で? 今も何かを開発中ということはないのか?」


 水澤の問いに、裁縫は頷いた。


「ない。――もともとあそこは、優秀な科学者を世界中から招聘しょうへいし、科学の発展をより一極化するという目的もあった。それゆえの象牙の塔――まあ、島だけど。そういうものなんだ。そして、名目上“開発中技術の機密漏洩ろうえい”防止のため、許可された船以外は接近することすらできないようになっている。問答無用に防衛システムに撃墜されるんだね。ただ間違って防空圏内に入っただけでも容赦なしさ」


 ところが、と裁縫は手のひらを見せた。


「記録によると――より正確に言うなら、“記録されていない”という記録によると、天空都市はもう長いこと誰も受け入れてはいない」

「それが、天空都市が機能していないという判断の根拠なのか?」

「それだけじゃないけどね。あくまでも根拠の一例であって、根拠ではない。――でも考えてみてくれ。最後に天空都市が招聘したのは、露国の人形師、自動人形の完成者であり、これが今からおよそ四百年前」


 言って、裁縫は肩をすくめて見せた。


「単純に考えて、四百年も生きられる人間がどれだけいるんだい?」

「……成程な。それもそうか」


 そういうことだ、と裁縫は頷く。姫森はまだわかっていないような顔だが、早見にはさすがにわからないでもない。

 つまりこういうことだ。新たに人を受け入れず、四百年もの歳月が流れていれば、


「天空都市は既に無人……かもしれない、ってことか」

「そう。その通りだよはやみん。珍しく合格点の回答だ」


 ぱちぱちとおざなりな拍手を送る裁縫。何なのだろう、この娘は喧嘩を売っているのだろうか。とにかく無表情なのも癇に障るが。

 しかもさりげなく“合格点”であって、満点ではないようだ。


「不老や不死の技術は既に開発済みだけれど、不老はともかく、不死の技術を実際に使う人間はそういない。――肉体が死なずとも精神が死んでいく。それを受け入れる人間もそういないからね」

「一切の活動がなく、人もいない可能性がある――か。確かにそこなら、現状唯一の避難先かもしれないな。そうすると、やはりそこに向かうとして、例の防衛システムとかいうのはどうなんだ。それは機能しているのか?」


 水澤の言葉に、裁縫は頷いて端末を操作した。すると、新たな画面が空間に展開される。

 巨大な画面に、天空都市の簡略図が描かれている。


「逃げ先として、そこが最も肝心なところだ。――侵入に際しても、シェルターと考えても、ね」


 手元に開いた端末に何かを打ち込みながら、裁縫は続ける。


「人はいなくなってもシステムは健在だ。防空圏内に入った飛行物を、問答無用で撃墜する。――記録上、天空都市の防衛率は100パーセントだ」

「……って、おいおい、それじゃあどうやって入るんだよ。入れないだろ。入ろうとしても落とされるんだろ」


 早見のツッコミにも、裁縫は涼しい顔だ。


「確かに入るには難しい。だが入ってしまえばこちらのものだ。自動的に、防衛システムがボクらを護ってくれる形になるんだからね」

「いや、だからその入り方は」

「そこははやみんに頑張ってもらうんだよ」


 さらっと言われたその言葉を、聞き、咀嚼し、嚥下し、理解し、


「……は」

「世界最後の魔法使い。キミになら、あの防衛システムを突破することもできるはずだ」


 あくまでも淡々とした調子を崩さない裁縫に対し、早見は口を開けたまま絶句した。

 

 


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