ななじゅういち。
「いや、天空都市って。無理だろそれは」
いやいやいや、と顔の前でぶんぶんと手を振る早見。それに対して裁縫は、
「ほほう。どうしてだい?」
「どうしてって、お前……そりゃあ、だって、天空都市っていうのは科学世界の中心で、つまり世界中の機関の親玉みたいなものだろう? 何で手下から逃げるのにボスのところに行くんだよ」
「成程、それはもっともな意見だね」
どこか軽んじる調子の裁縫に、早見は半眼になる。
今度は難しい表情の水澤が、
「つまり、何かあるんだな? その天空都市に」
「そうとも。根拠があって言ってるんだよボクは」
「……こっち見んなよ」
「なーんか最近、はやみんがこういうときの噛ませ犬的ポジションにあるような気がするなあ」
「やめろ姫森。言わなければ明らかにならないことを言うんじゃない」
「どうして天空都市が逃げ先になるのかっていう話だけど」
裁縫は淡々と説明し始める。
「ボクがここのところ、天空都市についても調べていたのは知っていると思うけど、その中でわかったことのひとつでね。――さっきもはやみんが言った通り、確かに天空都市は科学世界の最先端ではある。でも、どうしてそう思ったんだい?」
裁縫は早見を見る。だが早見は、むすっとしたままで何も答えない。代わりというわけではないだろうが、隣に座っている姫森が、
「そりゃあ、世界の発展はあの科学都市が空を飛んでから始まってて、あそこに住んでる世界最高峰の科学者たちが、世界の科学の発達を先導してきたから――でしょう?」
姫森の答えに、裁縫はうんうんと頷いて、
「そういえばお姫ちゃんは、この間の話には参加していなかったね……まあ今はいい。確かにお姫ちゃんの回答はおおむね正解だ。――ただし教科書的に」
正解だと言われて、わーいと諸手を挙げて喜びを表しかけた姫森だったが、裁縫の最後の言葉に、え? と動きを止めた。
「……教科書的に?」
「そうとも。それは確かに、テストに書けば満点だろうけども、残念ながら今の場合では当たらずとも遠からず、だよ」
「………」
「わかったかお姫ちゃん。噛ませ犬的ポジションの俺の気持ちが」
「……うん」
俯く早見と姫森をスルーして、裁縫は続ける。
「ボクが調べた経過でわかったことのひとつ――それは、今のお姫ちゃんの回答の否定になる」
「つまり……天空都市は、科学の最先端ではない、ということか?」
水澤の言葉に、しかし裁縫はまた首を振った。
「少し違う。あそこが最先端だと言うのは確かだ。何せ、あれだけの人工島を浮かべているんだ。あれだけの科学力は、現代にはない」
「いや、しかし……あれは、千年も前に造られたものなんだろう?」
「そうだよ。その辺りのことも後で説明しようか。――で、何が違っていたのかということだけど」
ふむ、と水澤は頷いて腕を組む。裁縫は頷きをひとつ置いて、
「天空都市は、少なくともこの数百年、新たな技術の開発なんて一切していないんだよ」




