なな。
背後をついてくる買い物籠に入り用なものを放り込みつつ食料品コーナーを一周して、姫森は精算機の前に立った。
姫森が精算機の認証を開始すると、背後にいた籠がふよふよと所定の位置まで移動して、自分の内側に収めていた商品を吐き出し、退避する。その様子を横目に見つつ、カードを通し、手のひらをかざして、
「……あれ?」
エラーが出た。もう一度かざす。再びエラー音が鳴る。
「あっれー……?」
おっかしいなあ、と自分に手のひらを一瞥する。本屋でもそうだったけど……と眉根を寄せた後で、三度目のなんとやら、ともう一度かざすと、今度はちゃんと認証された。
袋に梱包された商品を受け取りつつ、自分の手のひらを見つめる。
「何だろう……別におかしいところはないと思うんだけどなあ」
首を傾げる。だがすぐに、まあいっか、と気を取り直した。結局認証できてるし。大丈夫でしょ。
端末を取り出して、空間転移を起動する。座標をアパートの自室の前へ。
一歩。デパートの喧騒が遠のく。
二歩。一瞬の浮遊感の後に、足の叩く床音が変わる。
三歩。姫森はアパートの自室前の廊下に立っていた。
夕食は何にするかなあ、とはなうた混じりに戸の前に立ち、手のひらを錠板にかざす。これは難なく開いた。よし、とそれに対しては頷いて、
「……えーっと」
やや迷う。
触らぬ神に……って、神様なんていないんだけど。
横目に見、首をめぐらせ、正面に見る。
「……いや、でも、ほっといちゃダメ、だよね……?」
つぶやいて、周囲を見る。
廊下は長い。が、右にも左にも幸か不幸か誰もいない。
恐る恐る、近づいた。
「あ、あのー……」
しゃがんで高さを合わせる。
「大丈夫、ですか……?」
厄介事だったら嫌かなあ、などと思いながらも、姫森は声をかけた。
廊下の壁に背を預け、うなだれるような姿勢で脱力しているように足を投げ出して座っている、自分と同じかやや年上らしい女性に。