ごじゅうとはち。
その夜。
キッチンで新たな料理に挑戦していた早見のところに、珍しく姫森がやってきた。
「おう、どうした。つまみ食いか?」
「開口一番何を言ってくれてるのかな! 私は一体何キャラなのさ」
おどけてみせて、姫森は軽く笑う。
「そうじゃなくて。ほら、私暇だからさ。何か手伝おっかなって」
「へえ。珍しく殊勝な」
「珍しくって……まあ、そうなんだけどさ。何にもしてないのも、そろそろ限界というか」
視線を泳がせつつそんなことを言う姫森を、ふーんと眺めてから、まあいいか、と早見は頷いて、
「それじゃあ、折角だから手伝ってもらおうかな。ちょうど今日は結構凝ったものを作ろうとしてたところでさ――」
ほら、とレシピブックの開いていたページを見せる。おお、と姫森は感嘆の声をもらした。
「これ作るの? できるの?」
「それをこれからやってみるんだよ」
笑って、早見は器具と材料を確認し始める。姫森も、本を覗き込みながらそれを手伝う。
「はやみん、小麦粉ってどこにしまってあるのー?」
「はやみん言うな。小麦粉は上の棚の、下段の左奥」
「はやみん、サラダ油はー?」
「はやみん言うな。サラダ油はシンク下の棚の、右手前だったかな」
そんな調子でものをそろえた。
姫森も入って驚いたが、これが結構広々とした立派なキッチンで、ものを全部並べてもまだスペースがある。
「さて……じゃあ、始めようか」
腕をまくりながら言う早見に、うん、と姫森は頷いた。




