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ごじゅうとろく。
「誰も、疑問に?」
そうとも、と裁縫は頷く。
「実際、疑問に思ったことなんかなかっただろう? 天空都市は生まれたときからそこにあって、あるのが当たり前で、考えるまでにも至らなかっただろう? “天空都市がある”という以上のことを考えたことがないだろう」
言われて、早見は思い返してみる。
「んー……確かに、ないな」
「疑問を持たないことに対してすら、疑問を持たないんだよ」
「だが、それがあの天空都市と何の関係があると?」
水澤の質問に、裁縫は頷いて、
「何か関係があることは確かなんだ。だからボクは、天空都市にまつわる情報を徹底的に遡ってみた。すると、ひとつ、わかったことがある。いや、これこそ“わからない”ことなのかな」
裁縫は、一拍置いて、言った。
「天空都市の始まり。天空都市があの空に浮かぶ前後百年の歴史が存在しない」




