ごじゅうとご。
「天空都市。東都上空2000メートルに浮遊する巨大な人工島だ。全高700メートル、面積1500平方キロ。動力源は純然たる科学力。世界の科学の最先端に浮かぶ、科学者のみの住まう象牙の塔。はやみんの言う通りおよそ千年ほど前から東都上空にある――と、なってはいる」
つかつかと部屋に入ってきて、遠慮なくどさっと椅子に座った裁縫は、肩肘をついてそんなことを言う。
「なんだ、含みのある言い方だな。それとはやみん言うな」
「ボクがこの一週間ずっと調べていたことのひとつが、その天空都市のことでね。すると、面白いことがわかった――いや、わからなかった、と言うべきなのかな」
「ほう。わからなかった、とは?」
興味を持ったようで、先を促す水澤に、裁縫は頷いた。
「ボクも連日徹夜で、さすがに疲れていてね。前振りが面倒だからざっくりと言ってしまうけれど――ありとあらゆる方法で、統合情報中枢から個人研究所のバンクまで虱潰しに調べたところ、どうやらこの天空都市の離陸には不明な点が多い、ということがわかった」
「不明な、点」
そう、と裁縫は頷く。
「考えてみれば、今まで誰も気付かなかったのが不自然なくらいに、歴然としたおかしいことがある。何かわかるかい?」
問われた早見は、しかしすぐに顔をしかめて、
「わかるわけないだろ」
「そうだね。はやみんにわかるわけがないね」
く、と歯噛みする早見を軽く流し、裁縫は先を続ける。
「それじゃあはやみん、あの天空都市、確かに動力は純然たる科学力だ。だけれど、具体的にどういう技術を用いて飛んでいるのか、答えられるか?」
「あ? ああ、そりゃあ、」
答えかけた早見は、あれ、と首を傾げて、
「そういえば知らないなあ」
「もうひとつ。世界中を探しても、天空都市はあの東都の天空都市しか存在しない。おかしいとは思わないかい? どうして東都にしかないんだ? あれほどの巨大都市が」
「そりゃあ……世界の最先端だから、だろ?」
裁縫は首を振る。
「違うよ。国力を考えてみるんだはやみん。確かに日本は、繊細な技術力に関してはトップクラスだ。だけれど、人工島を浮遊させ続けられるだけの国力は日本にはないんだよ。むしろ、国力においては日本など足元にも及ばない、米国や英国、中国なんかが飛ばしていない方がおかしい」
「えーっと……なかったっけ」
「ない」
そしてそれだ、と裁縫は早見を指さす。
「そこなんだよはやみん。天空都市に用いられている技術もわからず、他の列強が同等の技術を得ていないということと、何よりもそれらのことに対して“誰も疑問を持っていない”ということなんだ」




