よんじゅーなな。
入った部屋は、どうやら書斎のようなところらしかった。正面にデスクを置いて、三方向に書棚が設置され、ぎっしりと書籍で埋め尽くされている。
ある種、圧巻と言ってよかった。
「すげえなこりゃあ……一体何冊くらいあるんだ?」
思わず嘆息とともに言ってみるが、これには裁縫も肩をすくめるだけだ。
「それで、あったのか? 眼鏡」
デスクの向こうに立つ水澤に訊いてみる。すると水澤は頷いて、見れば手には筒状の入れ物を持っている。眼鏡ケースだろう。
おお、と早見は破顔して、
「そりゃあよかったな。それでやっと小説が書けるんだろ?」
うん、と水澤は頷いた。そしてケースを開き、眼鏡を取り出す。
銀縁の、全体に華奢な雰囲気の眼鏡だ。
しかしそれを手に持ったまま、水澤はなぜかかけようとしない。
ためらっている。
「? どうした、かけないのか?」
不思議に思った早見が問うと、水澤は、うん、とまたも頷くも、やはり躊躇している。
どうしたのか、と見ていると、水澤は、ちら、とこちらを窺うように見た。
「……その、ね」
「ん? ああ」
「驚かないで、ね……?」
恐る恐る、そう言う水澤に、訳が分からないながらも早見は頷いて見せる。
何だろう。眼鏡に何かあるのだろうか。実は全く似合わないとか?
思いつつ見る中で、水澤は早見と裁縫に見守られつつ、そろそろと眼鏡を開き、ツルを左右に通し、鼻当てを鼻にまであてがい、かけた。
眼鏡をかけ終えた水澤が、顔を上げ、こちらを一瞥した。
「……ん?」
早見は、眼鏡をかけた水澤に、何か違和感を感じた。
いや、別に、先に危惧していたように、水澤に眼鏡が似合っていない、ということではない。
ただ、何かが違うような。
訝しげに早見が見ているうちにも、水澤は視線をデスクに落とし、さらに何かを探している様子だ。これはすぐに見つかったらしく、引き出しのひとつからそれを取りだした水澤は、軽く頭を振って肩にかかっていた髪を背に流すと、手慣れた様子で後頭部にまとめ、取り出した髪ゴムで結い上げた。
ポニーテール。
「――さて」
先程までとは打って変わった口調で、水澤は早見と裁縫をまっすぐに見た。
「まずは礼を言おう。まだ一度も言っていなかったはずだしな。――助けてくれて有り難う。早見クン、裁縫クン」




