よんじゅーよん。
結界を張っているとは言っても、空気抵抗による揺れや風を切る轟音を完全に防ぐことができるわけではない。多少の揺れには上手くバランスをとる必要がある。
早見は進路を見据えていて、裁縫は端末で周辺状況や方角を確認していて、姫森は上を見ていて。
不意に水澤が、あ、と小さく声をもらした。
「――ん、どうしたんだいすーちゃん。何か見つけたかい?」
裁縫の問いかけに、水澤は控えめに頷いた。そして、自分の見たものを指で指し示す。
「その、――あれ、何?」
うん? と裁縫と早見がその方角を見やる。その先には陸地があり、雲があり、
「――ああ、あれか」
それを視認した裁縫が頷いた。
「なに、ってことはないと思うんだが……見たことがないのか?」
早見が問うと、水澤は頷く。そんなわけがない、あれはこの国の技術力の最高峰であり、世界の科学の象徴だ。あれと同等の技術力を有する国はふたつとないのだ。科学史を紐解けばまず出てくる存在である。だが早見が何かを言う前に、裁縫があっさりと、
「ああ、あれは天空都市だよ」
そう答えてしまった。
「東都上空2000メートル……つまり、今ボクらがいる高さと同じくらいのところにあるんだね。何せ大きさが大きさだから、この距離でも見えるというわけだ。しかし同じ高さからあれを見る、というのはなかなかないからね、いい機会だ、よく見ておくといいよ」
水澤は、うん、と頷いて彼方の天空都市をじっと見つめている。
「そうそうはやみん、知っているとは思うが、天空都市の防空圏内にはくれぐれも入らないでくれよ。即行で撃ち落とされるからね」
ついでのように言ってくる。まあさすがにこの距離ではないと思うが、早見は一応頷きを返しておいた。
横目に確認する水澤は、巨大な陰のようにも見える天空都市を眺めつつ、何かを考えているようだった。




