さんじゅう。
「科学者たちは考えた。
「自分たちの発想力の喪失と、小説家たちの減少には関係があるはずだ、と。
「しかも、科学者たちが完全に発想力を失った後も、少数であるが小説家は現れつづけていた。
「だから彼らはこう考えた。
「小説家の発想力の源泉を研究すれば、自分たちの発想力も補うことができるようになるはずだ、と。
「とはいえ、既に世に現れている小説家を拘束し、研究することは極めて難しい。何せ、人倫に反する研究しかできないのだからね。まして小説家だってその時点で既に希少種だ。突然いなくなればさすがに目立つ。
「そうなれば、小説家として現れる前に拘束することが必要だ。まだ世に知られていない人物であれば、人がひとり突然いなくなったところで誰もそれほど不審には思わない。
「そうかといって、勿論それは簡単なことじゃあない。世界のどこでそういう人間が現れるのか、誰にもわからないんだからね。
「それがゆえに、科学者たちは後手後手に回り続けた。希少種を発見する前に、彼らは小説を著してしまう。小説家は、ただそれだけで有名人だ。一冊でも世に出してしまえばもう手は出せない。
「そうしているうちに、今度は小説家の存在の方もいよいよ消えていった。
「そしてとうとう二百年前の米国の小説家の死を最後に、小説家は世界から完全にいなくなった。
「科学者たちは絶望した。
「小説家は絶滅した。
「これでは自分たちもまた衰退していくしかない。遠からず、小説家と同じように絶滅するかもしれない。科学の完全な崩壊だ。
「魔法を失い、幻想を失った世界で、科学すらも消え去ってしまえばそれはもう世界の終わりだ。
「科学者たちには、それが許せなかった。
「でも、もうどうしようもない話だった。
「――ところが、その絶望的な状況に、あるとき光明が射し込んだ。
「そう、“彼女”の誕生だ」




