にじゅうさん。
「ふむ。しかし、確かにそうだね。そろそろボクも、自分のことをキミたちに開示しないと、これから協力していくにあたって不都合も多いかな」
「いや、協力するかどうかはまた別の話なんだがな」
座卓を囲んで座る四人。斜向かいに座る早見が半目で言うと、少女は早見に向けて片眉を上げて見せた。
「おやおやはやみん、つれないことを言うじゃないか。それがキミのツンデレ属性なのかい? 誰のお陰でそこの小説家と姫森嬢を助けられたのか、はやみんはもうお忘れかな?」
「はやみん言うなと。――いやまあ、その辺りはそうかもしれないが……」
「それにどのみち、キミはボクと協力していくしかないんだよ。いや、協力というよりは共闘かな、この場合。キミは既に科学世界全域に認識されてしまっているんだよ。さっきの対戦でね。――キミは既に、立派な登場人物のひとりなんだ。好むと好まざるとに関わらず、望むと望まざるとに関わらず、舞台へ登ってしまったのならもう踊るしかないんだよ」
それどころか、と少女は続ける。
「主人公のキミがいなくっちゃ、物語はどうしたって始まらないからね」
言われて、早見はあからさまに顔をしかめた。
「……俺は主人公じゃない」
「そう思っているのはキミだけだ。この世界も、この物語も、誰もそうは思っちゃいないんだよ。ちょっとしたセカイ系って奴さ」
演技めいた大仰な動きで、少女は肩をすくめて見せる。困ったものだね、と。
「主人公は主人公であることを望まず、しかし物語は彼を主人公に進むしかない。――全く、とんだ茶番だね」
「……前置きが長いよお前は。さっさと名乗れ」
やや声のトーンを落として、早見が言う。おっと、と少女はこれまた多少大げさに驚いた挙動を取って見せ、
「それもそうだね。ボクも、いつまでも自分の代名詞が“少女”だとか“少女X”だとかだと書き手に対して忍びない。しっくりこないものねえ……うん、それじゃあいよいよ改めまして、ボクが誰なのかを名乗らせてもらおう」
うん、と頷いて、無表情はそのままに、座卓の上に浅く両手を置いて、少女は名乗った。
「ボクの名前は裁縫だ。裁判の“裁”に縫合の“縫”、二つ並べてタチヌイと読む。よろしく頼むよ」




