にじゅういち。
「ああ、くそ、マジでいなくなりやがった……」
結界を解きつつ、周囲を探り、早見は舌打ちする。
「あの男捕まえたら何かわかったかもしれなかったんだが……」
「……ねえ、はやみん」
ふと、背後の姫森が小さく声をかけてきた。その声の位置が妙に低いことを不審に思いつつ、
「はやみん言うな――って、おい、大丈夫かお前。腰抜けたのか?」
姫森は、ぺたん、と地面に座り込んでいた。手を繋いだままの小説家は、こちらは座り込んでこそいないが、高さを合わせるためかしゃがんでいた。
姫森は、半ば呆然とした目で早見を見上げ、
「魔法使い、って……どういうこと?」
「あ?」
あー、と早見は頭を掻く。その辺りのことは、方々に面倒しかないため、全く公言していなかったことなのだが、
「あー……それは、あれだよ、ほら、『上り詰めた科学は魔法と区別がつかない』って奴。俺、ほら、科学の使い方がまるで魔法使い、みたいな?」
我ながら苦しい。姫森も全く信じていない様子だ。
「でも……さっきのは?」
「知らん。あー、俺のファンかな?」
我ながら寒い。言ってから軽く後悔した。だから何か重ねないといけないような羞恥にかられて、
「ほら、俺って実は隠れた才能があったっていうかさ、実は街の人気者、みたいな? そんなもんで日夜ああいうテンション高めのファンが押しかけてきてだな――」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさとずらかるよ」
不意に新たな声がかかった。見れば、
「あ、少女X……お前、今までどこに行ってたんだよ」
言いながらも、恥の上塗りを防げたことに内心で胸を撫で下ろす早見。対して少女Xはそっけなく、
「別に。はやみんがいきなり空中回廊の手すり飛び越えてエアダッシュするもんだから、ついて行けないボクは大慌て大急ぎで取るものもとりあえず地に足着けて走って来たのさ」
「ほほう、それは見上げた心意気だな。ところでその手にある某コーヒーショップのコップは何かね」
「これかい? おやおやはやみん、かの有名な某コーヒーショップを知らないとは言わせないよ」
「隠さないどころか開き直り方が斬新だな! 全く急いでねェじゃねェか!!」
急ぎどころか悠々である。コップの中身も半分ほどになっているし。
「まあまあ、莫迦なことを言ってないで。さっさと立ち去らないと、面倒なことになるよ」
見て御覧よ、と少女Xは周囲を示す。そこらでは普通に人が歩いており、喧騒があり、
「……さっきの光子砲のクレーターが」
「今はまだ彼らの意識結界が継続しているけれど、あと十数秒で解けるね。だからその前に移動しないと、ボクらがこの惨状の犯人になっちゃうよ」
それは嫌だろう? と妙に偉そうに言う少女X。イラつくが、拒んでも仕方ない。面倒事は嫌なので、早見は端末から空間転移を、
「あ、まだジャミングも継続中だから、転移も使えないかな」
「え?」
「だからキミの魔法で飛ぶしかないよね。できるだろ? ほら時間もあと十秒くらいで――あ、間違えた。三、二、一、」
「ちょっと待て!」
大慌てで、早見は力を行使した。




