にじゅう。
まさか、という思いを持っていたのは、遠方より狙撃した伊織だけではなかった。
眼前にいた秋月もまた、同じ声を上げていた。
「そんなことが、できるはずが……」
半ば呆然と、秋月はつぶやく。
数メートル先に、変わらず小説家と一般人を庇って立つ少年は、全くの無傷だ。
彼ら三人を覆うように包む膜のような壁に、守られている。
「それは……いや、それが、そうなのか」
徐々に冷静さを取り戻しつつ、秋月は言う。
「成程ね……こうもはっきりと見せられては、もう疑いの余地はない。それが、そうなのか」
伊織の光子砲が外れたわけではない。それは、壁の周囲の地面が派手に抉れていることから明らかだ。
つまりは、それは防がれたということで、
「さすがは、現代最後の魔法使い……というところかな?」
言うと、少年はにやりと笑った。
「ああ? 魔法使い? 何の話だそりゃ一体」
「この期に及んでとぼけるのもいいが、これではっきりしたというわけだ……成程成程、3CCが欲しがるわけだ」
「3CC?」
虚を突かれたような顔をする少年だが、すぐに思い当たったようで、
「なんだ、知ってたんじゃないか」
「おっと、これはいけないね。――奇襲は失敗。これ以上長居は無用だ。魔法使いの実在が確認できたことだけでも収穫としておこうか」
言って、秋月は伊織に撤退を通知、同時に空間転移を起動し、
「あ、ちょ、おい待て変態!」
「それだけは否定しておくよ! 僕は変態じゃないからね!?」
秋月は、それに遠方の伊織もまた、一瞬で現場を離脱した。




