じゅうきゅう。
実弾ではない。光子砲だ。
追尾設定も付与されたそれは、音もなく空間を走り、設定座標へと向かう。
数キロの距離があったところで、着弾まで数秒とかからない。
照準鏡で眺めるなか、一瞬で光子砲が少年へと迫る。
着弾した。
照準鏡から視線を外して肉眼で確認してみても、着弾と同時に天へ高く昇る光の柱が確認できる。着弾の衝撃波を、上昇の指向性を持たせることで周囲へ撒き散らさない設定だ。さらには、着弾と同時に意識結界が展開されているため、周囲の人間は誰一人として、自分のすぐ近くで誰かが狙撃されたことなどには気付かない。
「さて、お仕事終わり、っと……秋月の奴、ちゃんとターゲット確保してるかね」
まさかあの少年と一緒にターゲットまで灰にしているということはあるまいが、どのみち逃げられては意味がない。
「この任務、小説家にもしものことがあったら死刑だってんだからシャレになってない……」
独白しながら見る照準鏡の中、彼女は妙なものに気付いた。
徐々に晴れていく土煙の中、何か煌めくものがある。
「……まさか」
無意識につぶやく。
だんだんと見えてきたそれは、シャボン玉のように虹色に煌めく膜のようなもので、半球状に展開されており、中に人影を内包していて、
「――まさか!」
その内側にいる人物を確認して、伊織は思わず声を上げた。