じゅうなな。
……なに、こいつ。
身構えを解かないまま、しかし外見には余裕を消さないまま、早見は向こう側に退いた男を観察する。
光学兵装だっていうのは、わかる。
でも、なんでそれをこんな奴が使ってるんだ?
光学兵装は、実のところ軍部でも一級の兵装だ。一般兵に与えられるものは、技術こそ光学式が用いられていても、グローブに付与するものであったりなどと、装具強化程度のものでしかない。それを、生身に展開させるほどのもの、それも、
あの跳躍から見るに……全身式か。
そこまでのものともなれば、支給されることはまず滅多にない代物だ。むしろ、戦争のないこの時代にそんなものがまだあったことに驚きだが、
それだけ、この小説家とやらの価値が高いってことか……?
後ろに姫森と一緒にいる、妙に生気のない女。彼女はどうやら本当に、とんでもない人物であるらしい。どうしてそんな重要人物と姫森が一緒にいるのかは謎だが、
「成程な……あんた、ただのナンパ野郎なんじゃないかとも思ってたんだけど、違ったんだな」
一つ頷き、
「ぶっ飛んだ変態だったんだな」
「ええ……!?」
「いやいやいやいや君! 君!! さっきもそうだったけど、なんだって僕を変態呼ばわりするんだい!?」
こちらを指さして、男は吠える。
「何の根拠があって、僕を変態と断定するんだね、君は!」
「そりゃあ、お前……」
とっくりと、男を上から下まで眺め、
「――生理的に?」
「無根拠じゃないか最悪だ!」
「いや、それ以前にお前、いやお前らか。あれだろ? そこの小説家捕まえたら全裸・緊縛・監禁の三コンボ決めるんだろ? ――うわあ、マジで最悪だなお前」
「しない! しないよ!?」
暴れる男を、うわあ、と姫森も引き気味の表情で見るが、そこでふとあれ? となる。
小説家?
背後に庇っている女性を見る。
変わらず、茫洋とした目をしていた。
「しかし……いや、そうか。君が例の。成程ね」
男は、ふと何かに納得したように頷いた。あ? と早見が見るが、男はひとりで数度頷き、
「私もまだ半信半疑だったが……これを素手で防がれたとなると、信じがたいが信じるべきかね」
「何の話を……いや、あれか。お前も昨日の連中の仲間か?」
そうはいっても、昨日の連中に光学兵装使ってる奴なんて一人もいなかったんだが、と内心に思う。対して男は、は? と疑問して、
「昨日の……? いや、それが誰なのかは知らないが、恐らく別の機関だろう。僕らが君に接触するのはこれが初めてさ」
「へえ……」
どうだか、と言いつつ、それもあり得る話か、と考える。多少誇張されているとしても、あの少女Xの話では、世界がこの小説家とやらを狙っているらしいのだから。
そういえば、あの少女Xは?
さりげなく周囲を探る。いない。
どこにいった?
「まあ、いいよ……君は確かに我々にとって不確定要因でもある。ここで始末できるならばそれもよし、だ」
「え、おいおい俺ってば始末されちゃうのか? 昨日の連中は俺を引き込もうとしてたんだけど」
聞いた男は、やれやれ、と肩をすくめて見せた。
「だから言っただろう? その誰だか知らない誰かさんたちと僕らは組織が違うってさ。――我らが機関長は、別に君なんて必要とはしていないんだよ。例え君が、前情報通りの人間だったとしても、ね」
そういうわけで、と男は両手を浅く広げた。思わず身構える早見に構わず、独白するように男は言う。
「コードD13発令だ。遂行を許可する。――よろしく頼むよ、伊織さん」