じゅうろく。
は? 変態?
反射的に声の響いた方角を見上げる。そこにいるのは、
「はやみん! 来た!」
「はやみん言うな! ――じゃなくて、とにかくその変態から離れろ! その人を渡すな!」
え、と慌てて見ると、同じくつられて早見の方を向いていた秋月が、軽く顔をしかめていた。
「失礼なことを言ってくれるねえ……誰が変態だい?」
口の中でつぶやくように言って、今度こそ秋月は女性の手を取ろうとする。
「何だか知らないけど、気にすることはないよ。僕はその子の保護者なんだ――さ、早くこっちへ」
「……っ」
反射的に、姫森は秋月と女性の間を割るように入った。
背の高い秋月を見上げるように睨む。
「――何の真似?」
冷えた声音で、秋月が声を落としてくる。
その表情は、既に笑みを失っていた。
一貫して笑わなかった目と、同じ。冷酷な無表情。
対して姫森は、頬に冷や汗を伝わらせながらも、精一杯に笑って見せた。
答える言葉はひとことだ。
「別に――なんとなくっ」
虚勢でも何でもいい。
少なくとも、ひとりではない。
早見が来てくれた。まあ早見がどれほど役に立つかはわからないが、
いざとなったら壁にするし……!
一歩、下がる。押されるままに、後ろの女性も下がった。
秋月はひとつ、舌打ちする。
「もう少しだったんだけどねえ……それこそ、手荒な真似はしたくなかったんだけど」
仕方ないか、と肩をすくめた。
「背に腹は代えられない。多少強引にでも、攫っちゃうよ」
言って、秋月は軽く腕を振った。すると、その腕に淡い光が走り、何かの紋章のようなものを描いた。
それが何か。見るのはさすがに初めてだが、姫森でもそれが何なのか知っている。
まだ戦争が数多く行われていた時代、その末期に登場した武器。
光学兵装。
平たく言えば――素手で鉄板が切断できる兵装だ。
ひ、という声を喉の奥に呑んで、姫森はその場を動かない。
「さあ――来てもらおうか」
「いや、そこまでだっ」
空中から滑り込むようにして、姫森と秋月の間に早見が割り込んで来た。
「全く全く、久々に肝冷やしたってなあ――変態の犯行現場だもんな!」
「――くっ」
両足で着地した早見に、秋月はとうとう焦りを顔によぎらせながら、兵装の光をまとう貫手を突き出した。
本当に、なりふり構わなくなったらしい。
その貫手は、光学兵装に守られたものだ。防ぐには、同じ精度の兵装を装備するしかない。だが当然のこと、早見がそんなものを身に着けているわけもなく、見るからに軽装で、
容赦なく鉄をも貫く手が迫り、
早見が、
「いやあ――! 串刺し――――!」
「とんでもないこと言ってんじゃねえ!」
悲鳴を上げる姫森の目の前で、あろうことか、早見はそれを素手で払った。
触れただけでおよそあらゆるものを切断するその貫手をだ。
「なっ――」
さすがに驚きを隠せない秋月。
続けざまに早見が繰り出した拳を、後方に数メートルに及ぶ跳躍で回避することで距離をとった。
「……どういうことだい?」
身構えたまま低い声で声を寄越す秋月。
「何の用意もないように見えるのに……いったい、どんな力だ?」
「訊かれて教える莫迦がどこにいるんだよ」
立ち上がりつつ、早見はせせら笑って見せた。