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じゅうご。

 

 

 突然の日の光に、早見はわずかに目を眩ませた。勢いを殺す少女Xは、そのままの勢いで空中回廊に滑り込む。

 ぎゅ、と靴裏の音を鳴らして、手すり手前でようやく止まった。

 早見は早見で、しっかりと制動はかけている。


「――っと」


 それでも完全に勢いを殺すことはできずに、わずかに前に出て、手すりに手をついた。

 そして、見下ろす。場所は、ちょうど広場、噴水を一望できる位置だ。


「ここまで来てなんだけど、実のところボクは姫森・千鶴を見たことがない。それもあってキミを半ば強引に連れてきたという理由もある」


 さあ探してくれ、となんだか上からの発言にわずかな苛立ちを感じながらも、断るわけもない、視線を広場に走らせる。

 いた。

 隅々まで目を配る必要もなく、姫森は噴水前、ベンチの前にいた。


「いたかい?」

「ああ、いた。あそこだ。だけど――あれは、誰だ?」


 目を凝らす。

 姫森は、二人の男女と一緒にいた。

 姫森の横に立つのは女性だ。ややうつむき加減に立っていて、あらぬ方向をぼんやりと見ている。ついでに、どういうわけか姫森はその女性と手を繋いでいた。

 それから、手前に男がひとり。こちらは背を向けていて顔などは窺えないが、手などの動作から姫森に話しかけているのはわかる。

 男は後姿だけだが、それでも、どちらも早見の知らない人間だ。


「――ふむ」


 早見の横に立った少女Xは、同じようにそこにいる三人を一瞥して、頷いた。


「成程ね。これはエマージェンシーだよ」

「その割には落ち着いてるのな」

「慌てても仕方があるまい? 姫森・千鶴と小説家を確認できたのは確かだ。ここから必要なのは冷静な対処さ」

「“彼女”、っていったな、さっき」


 視線はまっすぐに三人へ向けながら、早見は言った。


「ってことはくだんの小説家ってのは、姫森の隣の女か?」

「そうなるね」


 へえ、と早見は、遠目ながらその小説家とやらをまじまじと見る。

 小説家と言うのは生まれて初めて見たが、別段、他の人間と変わるところがあるようにも見えない。強いて言うなら、覇気がないというか、ぼんやりし過ぎている気もする。


「何を観察しているんだい。聞いていなかったのか。エマージェンシーだよ」

「一貫してマイペースなお前に言われたくないんだがな……」


 と、視界の中で、男が姫森と小説家に手を差し伸べつつ一歩近づいた。

 姫森はやや身を引き、何かを言う。


「……おい少女X」

「なんだいはやみん」

「はやみん言うな。そしてなぜお前がその呼び名を知っている――いや、そんなことは今はいいんだ」


 ひとつ訊く、と早見は視線を固定したまま続けた。


「科学者が小説家を捕まえようとしてるんだよな……捕まったら、あの小説家はどうなるんだ?」


 男が再び一歩近づいた。すると姫森はまた何かを言う。それでわずかに男は止まるが、もう距離はない。

 もう少し手を伸ばせば容易に届く距離だ。


「そうだね」


 平坦な声音のまま、淡々と少女Xは答えた。

 その間にも男は動き、いよいよ女性に手を、


「そりゃあまあ、科学者のすることだからね。詳細省いて率直に表現すると――全裸に剥いて緊縛して檻かな」

「姫森! 今すぐその変態から離れろっ!!」

 

 


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