じゅうよん。
抜けた先は、ターミナルに内設されているデパートの中だった。
「……って、おい。何かわけもなくかっこつけた台詞で引いたくせに座標間違えてんじゃねえか」
「……ではテイク2」
「何でもかんでもやり直して済むと思うなよ」
言う間にも少女Xは端末を開いた。座標を改めて打ち込んで、起動を、
「………?」
「ん、おいどうした」
「ふむ。成程ね」
もっともらしく頷く少女Xに、やや苛立って早見は言う。
「何が成程なんだよ」
「いや、なに。先の転送ミスはボクのミステイクじゃなかったということだよ。――ボクは間違っていない」
「無駄にかっこつけるなよ。どういうことだ?」
見る間にも少女Xはあっさりと端末を閉じてしまう。おい、と声をかけると、彼女は流れる動きで早見の手を取り、引いた。
「ジャミングが流れてる。だから、この一帯の転送は、誰も上手くいってはいないはずだよ」
「ジャミング? いや在り得ないだろ。そんなものはもう百年以上前に完全に対策されてるはずだろ。誰が一体できるんだよ」
「それだけのことをできる機関が動いているってことさ」
言いながらも、少女Xは早見の手を引いて歩き出す。方角は、当初の予定通りターミナル前の広場だ。
「おい、ちょっと」
「ことは刻一刻を争うんだよ。ちょっとの間も待つことはできない。ボクにとってもキミにとっても悠長にしていていい状況ではないんだ」
少しずつ早められていく歩調は、すぐに走りに変わり、さらに疾走となり、まだ加速し、
「――っておい、前、前!」
「見えてるよ。うるさいなあ」
低い前傾姿勢で疾駆する少女Xに、ついていくのが精いっぱいの早見が叫ぶ。転ばないのも至難の業だが、何より恐ろしいのは少女Xが道を選んでいないことだ。
異変など全く知らない多くの人々が何も変わらず歩く隙間を縫うように、しかし直進している。
それなのに、誰にもぶつからない。
まるで合わせているかのように、少女Xの踏み込む瞬間に道が開く。
「魔法ではないけれどね。ボクにだってこれくらいのことはできる」
誇るでもなく、そして息を乱すことすらなく、淡々と少女Xは言う。
「……! おい! 説明しろ! どういうことだ? お前は何だ!?」
「今更な問いだよね」
やれやれ、と少女Xは吐息した。
「ボクが何かという説明は、首尾よく事が収まってからにしよう。問題は現状だ。ボクらは絶対に、小説家を彼らに引き渡してはならない」
「“彼ら”って誰だよ!」
疾走の風に目を半ばまで塞がれた早見が叫ぶ。対して少女Xはやはり平然と、
「科学者さ」
そう答えた。
「詳細も後にしよう。とにかく、彼女を科学者たちに渡してはならない」
言って、少女Xはわずかに身を起こした。腰を引き、両足を同時に前に出す。
踵を擦るフルブレーキだ。
煙すら伴って制動をかけた少女Xは、全くバランスを崩すことなく人ごみに突っ込む。
抜けた。