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ひゃくとさんじゅーとはち。
少年は小説家を地上へ送り、科学の娘とともにどこかへ去った。
恐らく、天空都市全域を見渡すために、それができる場所――この中央塔の頂上に向かったのだろう。
動力源は破壊されている。だから、“それ”にできることはもう何もない。
だが、知能はまだ残っている。動力源が失われた今、それも長くはないが。
己の身体が崩れゆき、堕ちていくことはわかる。
それでも、“それ”は笑っていた。
「――ああ」
嘆息する。
いや、それが吐息となっているかどうかはわからない。
既に感覚素子はほとんど停止しており、自動人形との回線も、繋がっているのかどうかわからない。
だが、“それ”は確かに、笑った。
「――世界は不思議に満ちている、か」
つぶやきは、つぶやきになっているのだろうか。
いや、それも、どちらでも構わない。
誰かに向けた言葉ではない。
それでも、強いて言うのなら、
“この世界を、よろしくね”
名前。
ふたり分の、誰かの名前。
「――はは」
笑って。
“それ”が到達し得なかった、さらなる天空を見上げて、
笑って。
“それ”は、己の役割を終えた。