いち、さん、よん。
前回の二の舞には、ならなかった。
光と拳は。
“科学”と“幻想”は、拮抗する。
「二度ネタが――通じるか!!」
早見は、吠える。
衝撃が空間を蹂躙する。大気が鳴動し、天空都市が震える。
「水澤さんだって言ってたろ――世代交代なんだよ! いい加減隠居しろ!」
「――ならば問うぞ、少年!!」
光の向こうから、“神”が叫ぶ。
「君は、世界がどういうものなのか考えたことがあるのかね! 世界がどうあるべきか! 世界を背負っていくということがどういうことか、考えたことがあるのかね!!」
「ない!!」
早見は即答した。“神”が絶句する気配が伝わってくるが、早見は構わず続ける。
「そんなこと、考えるまでもない――世界を背負う? そもそも世界なんてものは、誰か一人で背負うようなものじゃないんだ! 自覚していようが無自覚だろうが、どんな奴だって世界をちょっとずつ変えていって、責任を背負って生きてるんだ。守る必要も、導く必要も、本当はそもそもなかったんだ!!」
さらに半歩踏み込み、光を押し返しつつ早見は叫ぶ。
「間違っていたのは、今まであんたに全部押し付けてきた俺たちなんだ。俺たちがちゃんと世界を見ていれば、あんたはそれほどまでに迷うこともなかった。もうあんたがひとりで世界を背負い込む必要なんかない――責任は、あるべき場所へ帰るだけだ!」
「それならば!」
さらに出力を上げ、早見を退かせて“神”は吠える。
「あるべき場所とやらへ責任が帰ったところで、“科学”と“幻想”がともにあれば、遠からずまた必ず争いが起きるぞ! それは悲惨で、非情で、非業な戦争だ!! かつてその戦争で、どれほどの命が無意味に失われていったのか――君たちは、それすらも容認するというのかね!?」
「容認なんてできないさ。だけど、だからと言って“幻想”をこの世界から排除したところで、問題の解決にはならない!」
「なぜだ! なぜそのようなことが言える!?」
「もう忘れたのですか? 私が先程あなたに言ったはずです!!」
早見の背後、裁縫とともに早見を支える水澤が、声を上げた。
「どれほど“科学”が発達しても、世界から“幻想”はなくならない! あなたがどれほど手を尽くしても、いずれかならず、何度だって、小説家も、魔法使いも現れる! だから――早見くん!!」
ああ、と早見は頷いて繋いだ。
「人間は貪欲だ。生きている限り、物語を求めてやまない。自分の手の届かない世界を、“幻想”を――だから、人間が人間である限り、小説家は、不滅だ。小説家だけじゃない。空想も、想像も、ファンタジーも、フィクションも、この世界からは決してなくならない!!」
早見は、後ろに引いていた右手を構えた。
掌から溢れ出すのは、早見が全身にまとう魔力と同じ、蒼白の光。
「百年経っても、千年経っても、どれだけ“科学”が進化しても――世界は不思議に満ちている!!」
光が象るのは槍。
“科学”の黄金と相照らす、天空のような蒼白の“幻想”。
「今までずっと、有り難うな。“神様”――」
静かな声で、早見は言った。
その言葉は、光の向こうの“神”に、確かに届く。
その視線が。
確かな意思をもって交差する。
だから、
「あんたの役目は、ここで終わりだ!!」
早見は、右手に掲げた光の槍を、全力で投擲した。
それは“科学”の光を消し飛ばし、“神”の身体を突き抜け、天空都市をも貫徹した。
戦いが、終わる。