ひゃくさんじゅーに。
「君は――」
わずかな驚きを声音に滲ませて、“神”は早見に言う。
「君は、あの中を抜けてきたのかね」
「おお。まあ正直余裕とは言えないけどな。ぶっちゃけ防衛システム突破するときの方がずっと楽だったように思えるくらいだ」
そう言う早見は、その言葉通りに無傷ではない。衣服はあちこちを刻まれ、薄く血の滲んでいる傷は数えきれない。
早見が抜けてきた戦場は、建物も何もかも全てが均され、瓦礫の平野と化していた。
だが、五体満足に立っている。
「勝てると――敵うと、思っているのかね。君は」
早見をまっすぐに見据えて、“神”は問う。
「一度死にかけた君だ。わたしと再び向き合うということがどういうことか、わかっていないわけではあるまい」
「まあ、なあ」
早見の答えは、軽い。
「前回本気で死にかけたし、次は絶対死ぬなって思ってるのも事実だけど……でも、どうだろうな」
「……どういう意味だ?」
「意外とうまくいくかもしれないぞ?」
早見は不敵に笑って見せる。
「魔法っていうのは“幻想”そのもので、魔法使いってのは“幻想するもの”――“想像”し、“創造”し、世界を変えていく者なんだよ。だから、想像力に限界がないのなら、魔法にもまた限界はない」
だからさ、と早見は言う。
「俺があんたに負けないっていう想像を抱き続けられるなら――俺は、死なない。それにまあ、あんたに勝つのは二の次だからな。ついでだ、ついで。ヤバくなったら、全力で逃げるさ。――約束、してきたからな」
「……約束?」
“神”の視線に、早見は頷いて返す。
「頼まれてるんだ。ちゃんと帰って、料理教えてやるってさ。約束は、破っちゃだめだろう?」
“神”は、じっと早見を見ていたが、やがて頷いた。
「――そうだな」
すっと腕を上げ、早見に手をかざす。
「では、見せてもらおうか。この世界の――君たちの、“幻想”を」