表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/141

ひゃくさんじゅーいち。

 

 

「――ならば、どうする」


 男は、静かに反問する。


「わたしが道を見失い、わたしの限界にたどり着いたというのなら――君は、どうするのかね」

「それは――いや」


 水澤は、浅く首を振った。

 そして、そっと眼鏡に指を添える。


「それは、眼鏡で偽ったこちらの私の言うべきことではないな――こっちの」


 眼鏡を、外す。


「こちらの私が、言うべきですよね」


 一瞬、凛と張っていた肩から力が失われ、頼りなく、弱々しくなってしまう。

 それでも、視線は、逸らさない。

 ふ、と息を詰め、自分の足で、立つ。

 この世界の“神”と、向き合う。


「あなたは、あなたの責務を果たしました。これ以上なく、最善の形で」


 だから、


「世代交代です」


 言う。


「かつて世界には“幻想”が普遍し、やがて“科学”と共存し、しかし“科学”のみになり――今、また、時代が変わるときです」

「どうやって変わるのかね」


 淡々と、感情なく、“神”は問う。


「わたしの作為は確かに完全ではない。だが、それでももう、この世界に“幻想”は存在しないのだよ? 君は小説家だが時間の漂流者であり、あの少年は魔法使いだが一代限りだ。――それでどうして、時代が変わると言うのかね」


 それは、ただの問いではなかった。


「君たちには、世界を変えていく、その覚悟が、あるのかね」


 それは、長く――永く世界を背負ってきた者の持つ、重み。


 だが、それを受けた水澤は、あろうことか――笑んだ。


「あなたは、ひとつ勘違いをしていますよ。“神様”」

「勘違い? 何を」


 両の瞳を浅く弓にし、口端に笑みを刻んで、答える。


「あなたは、もうこの世界に“幻想”は存在していないと考えている。“幻想”を、“科学”で排除できるものと考えている――でも、そんなわけがないんですよ」

「――それは」


 どういうことだ、と“神”が問う前に、水澤は手を上げた。

 すっと、まっすぐに。


「世界は変えていくものじゃない。変わっていくものです。そして、それを担っているのは、“科学”だけじゃない――“科学”がどれだけ発達しても、それでどれだけ世界を解き明かした気になっても――世界から“幻想”はなくならない。だって、人間は、“幻想”を抱えて生きていくものだから」


 指先は、天を指す。


「人間がいる限り、人間が人間である限り、“幻想”はなくならない! どれだけ光で照らしても、人は闇を求め続ける! 今は確かにいないかもしれない。でも、いつか必ず、小説家だって、魔法使いだって、何度でも現れる! だから――」


 にっと、笑う。


「だから早見くん! あなたの魔法を――あなたの“幻想”を、ここにください!!」


「――御了解」


 応ずる声とともに、水澤と裁縫が背にしている壁が外から破砕された。

 立ち込める粉塵の中、瓦礫を踏みしめて、彼はやってくる。


「呼ばれて飛び出て、ってわけじゃないが――」


 ふたりの前、“神”の正面に立ち、

 笑う。


「どーも。魔法使いです」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ