ひゃくにじゅうろく。
天井を破壊して降りてきた者を前にし、男は閉じていた双眸を開いた。
浅い笑みを口許に刻み、気さくな感じで両手を浅く広げ、
「――やあ。これはこれは久しいな、科学の娘。小説家を連れてわざわざこんなところまで、どうしたのかね?」
問いに、しかし科学の娘は応えない。無表情に見返すだけだ。
と、小説家が一歩前に出た。
「――お前に話があってここまで来た」
「ほう」
やや体の向きをずらし、小説家と正面から向き合う。
眼鏡の向こうから鋭い視線を当てて、小説家は言う。
「ずっと、どうにも引っかかっていることがあったんだ……だからそれを、確認したい」
「何かね」
小説家は、切り込むような口調で、問う。
「お前にとって“科学”とは、何だ」
「わたし自身だ」
既に一度交わされた問答だ。だがそれでも、男は即答で応じる。
小説家は頷いて、さらに続けた。
「お前にとって“幻想”とは、何だ」
「もうこの世界には必要のないものだ」
以前はそこで終わっていた。
だが、小説家の問いにはまだ続きがあった。
「なぜこの世界にはもう“幻想”は必要ない」
「“科学”が存在するからだ」
「“科学”が存在するだけで、“幻想”は必要ないのか」
「ない。――存在していてはいけないのだ」
「なぜ」
「君も知っているだろう――わたしが話した歴史だ」
「戦争か」
「そうとも――相容れない二者は、行く末には争いしか生まれないのだよ」
「だから、一方を消し去り、残った一方だけで世界を満たそう、と?」
「その通りだよ」
「そうか」
そうか、と小説家は頷いた。二度、三度と頷き、
「そうか――ようやくわかったよ」
言う。
「お前は、どちらでもよかったんだな」