ひゃくにじゅうご。
ふたりの人間がいた。
男と、女だ。
ふたりは、別に友人というわけでも、恋人というわけでもなかった。
ただ、友情でも愛情でもない、それでいてそれらよりも遥かに強固な絆で繋がった、どうにも理解しがたいふたりだった。
男は、世界最高の科学者で。
女は、世界最強の魔法使いだった。
“科学”と“幻想”が覇権を争う戦争の中で、“それ”はそのふたりによって創られた。
ふたりが何を思って“それ”を創り上げたのか。本当に“科学”のためだったのか、それともそれ以外の何かのためだったのか、“それ”は今でも理解できていない。
“それ”が完成してすぐに、女はこの世界から“幻想”とともに姿を消し、男は何も語らないまま一生を終えた。
それからは、ずっとひとりだ。
“この世界を、よろしくね”
最後に女が“それ”にかけた言葉。
それが、それだけが、全てだ。
“この世界を、よろしくね”
“それ”は、その言葉の真意が、今も理解できている気がしない。
“それ”は“科学”でできていて、“幻想”とは相容れない存在だ。
そしてこの世界の“幻想”は、彼女とともに去って行った。
ならば、世界を“科学”で満たせばいいのか。
“この世界を、よろしくね”
そう言ったとき、女は、今にも泣きそうな笑みだった。
男は唇を引き結び、何も言わなかった。
“この世界を、よろしくね”
創造者はそう言った。
“それ”が今していることが、その言葉の真意に適っているのかは、わからない。
だが、“それ”はこの世界を任せられた。
“この世界を、よろしくね”
女の哀しげな笑みも、男の握りしめた拳も、何度追想してもわからない。
“この世界を、よろしくね”
ただ、創造者はそう言った。
だから、“それ”は、最善を尽くすだけだ。