じゅうに。
姫森は既に、待ち合わせの噴水前、そこにいくつかあるベンチの内のひとつに座っていた。
「………」
何をするでもなく、ただ黙って座っている。
「………」
何せ、気まずい。
「………はぁ」
隣には、昨日拾った女性が座っている。
その女性がまた、妙だった。
肩口まで伸びた髪は栗色で櫛通しもよさそうであったし、顔立ちも整っていて十分に美人の部類に入る。
黙って座っていればよくできた人形のようだ。
ただ、あまりにも人形的過ぎた。
焦点の定まっていない、どこも見ていない目。
それを見るからに、本当に、人の目は人を表すのに大切なのだと思わせる。
生気がない。
手を引けば歩くし、食事を出せば食べる。ただ、それらはどことなく自動的で、意志というものが感じられない。
言うなれば、まるで――魂を、抜かれたような。
「……いやいや、魂なんて、ねえ」
今どき、と呟いて、横目に女性を窺う。
女性は横に行儀よく、生気なく、俯き加減に座っている。
話しかけても全く反応しなかった。目の前で手を振って見せても、茫洋とした瞳はこゆるぎもしなかった。
聞こえていない、のだろうか。
名前や、個人情報を示す何かしらを持ってはいないかと、反応がないのをいいことに身体調査してみたが、女性はそういった何かしらを何も持っていなかった。端末を起動させてみようにも、女性はどうやら端末すら持っていないらしく、そうなればもうどうしようもない。結局、胸囲的な敗北を思い知ってひとり落ち込む羽目になっただけだった。
はぁ、とまたため息をついてベンチの背もたれに体重を預ける。
面倒事、だったなあ、と思う。
まあ、そうなれば即刻警察機関に引き渡せばいいのだろうが、何かなんとなく、一度、早見に相談してみることにした。
何に惹かれたのかはわからない。
けれども、何かが姫森を引き留めた。
「――おや? おやおや、これはこれは!」
不意に、軽快な声が聞こえた。それは若い男性の声で、喜色を含んでおり、こちらを向いていた。
空を見上げていた顔を正面に戻す。
片手を振りながら、優男風の若者が近寄ってきていた。
「やっと見つけたよ! いやあ助かった。全くどこに行ってしまっていたのかと……君が保護してくれていたのかい?」
にこにこ、と言う擬音が背景に張り付いていそうな笑みを浮かべつつ、男が姫森に言う。
「……えっと、あなたは?」
やや引き気味に姫森が問うと、男は、これはうっかり! とわざとらしく額を叩いて、
「申し遅れた。僕は秋月という。その子の保護者でね。昨日その子がふらりといなくなってしまったものだから、ずっと探していたんだよ」
いやあほんと、助かった、と笑う秋月。そうですか、と返しつつも、姫森は無意識に逃げ場を探していた。
目。
にこにこ、という笑顔を満面に張り付けた男の、形こそ弓になっているその目。
恐ろしいほど冷え切っていて、笑みの欠片も窺えない。
やっぱり、目っていうのは大事だよなあ、と姫森は思う。