ひゃく、じゅうきゅう。
早見は、まっすぐに突っ込んだ。
作戦も何もあったものではない。ただ、魔力の燐光を全身にまとって、無謀に特攻しただけにすら思える。
侵入者を感知して、すぐさま防衛システムが迎撃を開始する。
それは、前回の反省を踏まえて何倍にも強化されたものだ。出力も、弾数も、密度も全てにおいて上回っている。
しかし早見は――かわさない。
光弾と重力弾の射撃を感知すると同時、裁縫に向かって叫ぶ。
「裁縫! 全ての砲塔のポイントをモニタリングしてくれ!」
「全く、無茶を言うよね――」
言いながらも、裁縫はすばやく端末を操作する。同時、早見の顔横に画面が現れた。
それは天空都市の全景と、無数の赤い点の群れだ。その数は膨大で、しかし早見はそれを一瞥しただけで、
「よし――わかった」
呟き、全ての砲撃を迎え撃つ。
数千にも及ぶ光弾と重力弾が、一瞬で早見に殺到する。それは狙いを違えず早見に直撃し、対象を灰も残さず消し飛ばすかと思われた。が、
爆発しない。
着弾していないのだ。
全てが――早見の周囲で、静止している。
「別に、大した攻撃じゃないんだ。これくらい。――要は数が多くて出力が馬鹿高いだけで、質はただの光子砲と重力砲なんだからな」
わかってしまえば、難しいことじゃない――早見は、言う。
「魔法っていうものが何なのか、ようやく思い出した――姫森の蹴りが効いたな。魔法っていうのは、こういうものなんだ」
目標を消滅させるまで間断なく砲撃は続けられ、しかし砲弾は目標に届くことなく宙に留められる。
「確かに、理論と法則を至上とする“科学”にとっちゃ――“魔法”って奴は、天敵だよな!」
ばっと手を上げる。それに応じて、早見の周囲に広がる弾が、揺らいだ。
「――行けっ」
早見の短い掛け声で、それまで静止を保っていた弾の全てが、逆走し、天空都市へ殺到した。
それも、一か所へ向かっていくのではない。自らを解き放った砲塔へと、帰っていくのだ。
遠くから見たならば、それは奇妙な花火のようにも見えるだろう。
天空都市を覆うように花開いていく、光と歪み。
全てが防ぎようもなく、天空都市を激震した。
その衝撃で、天空都市の高度がいくらか下がったのではないかと思われたほどだ。
膨大な数の砲弾が、全ての砲塔を破壊しつくすのに、一分とかからない。
無限に侵入者を迎撃し続ける、千年を守り通してきた防衛システム、その第一層が、ものの数十秒で完全に沈黙した。
だが、それではまだ終わらない。
「――はやみん、次が来る!」
端末を操作し、水澤の位置を探り続ける裁縫が叫ぶ。
早見も、見る。
天空都市の防衛システム第二層。
射程距離100キロ超過、直径数百メートルにも及ぶ超巨大な光の砲剣だ。
しかも、その数も前回よりも遥かに増えている。
しかし、
「手の内がばれてるんだ。数が増えたって大したものじゃない」
何十もの光柱が、宙に立つ早見に殺到する。
早見は、これも回避しない。
そして――これも、早見には届かない。
全てが、伸ばした早見の手の、数センチ先で止まっている。
さらには、
「……!? 出力が……」
裁縫の観測する中で、砲剣の出力がみるみる減じていく。それもひとつやふたつではない。早見に止められている全てが、同時にだ。
「……まさか」
裁縫が見る先、早見がにやりと笑った。
あっと言う間に、光柱は勢いを失って消滅した。
代わりと言うように、早見は両手を広げていく。そして、
――ヴン、
という音とともに、つい先ほどまで自分たちを襲っていた光柱が、早見の両手に出現した。
それも、まるで先の全ての光柱を合わせたかのように強烈な輝きを放つ、膨大な出力は計測不能の――
「出力を――喰ったのか!? 全部!!」
声を上げる裁縫に対して、早見は不敵に笑い、両手のそれを振った。
「確か、そこと、そこと……ああ、そこもだったか……」
実に気軽な、涼しさすら感じる表情で、早見はそれを振るう。抵抗力を奪われた天空都市はなすすべなく、その表層を削り取られていく。
第二層は、光柱の砲塔を全て破壊され、やはり一分足らずで突破されてしまった。
「けど――」
第三層。それは、一分の隙も無い光の壁だ。前回はそれに対して突貫し、辛うじて生きて抜けたが、出力も強化されている今回は――
――いや。
裁縫は、内心で首を振った。
何度繰り返しても、同じだ。
もう、誰にも早見は止められない。
世界最後の魔法使いは。
天空都市を包むようにして、光の壁が展開されていく。
それは確かに前回を遥かに凌駕する出力で、裁縫の端末でも観測できないものだ。
だが、その光壁に向かって、再び早見は走った。
まっすぐに、突貫する。
「しつこいんだよ。天空都市――」
固く握った拳を引き絞って、疾走する。
「お前の役目は、ここで終わりだ――!」
最後の守りの光に、真正面からぶち当たる。
早見の拳が、まっすぐに壁にぶち当たり、
破砕した。