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ひゃく、じゅうろく。

 

 

「え――何で?」


 呆然と姫森が言うと、早見は酷く言いにくそうに、しかし視線を逸らすことなく、


「ここから先は、危険すぎる」

「そんなの――わかってるけど、でも!」

「俺が、お前を守り切れる自信がないんだよ」


 苦い表情で、早見はそう言った。


「裁縫は、まだしも自分を守れるだけの力はある――でも、お前にはそれがない。俺はこれから必死でやる。全力で戦う。でも、その過程でお前に何かあったら……怖い」


 ぐ、と姫森は喉を詰まらせた。言い返しようもなかったからだ。

 しかし、気持ちの上では納得のできるものでもない。

 だから、押し黙ってしまって、拳を握り締め、


「――死んでもいい、とか、思ったりしてないよね」


 絞り出すような声で、そう訊いた。

 対して早見は、


「思ってない」


 はっきりと、そう答えた。

 まっすぐに、姫森の目を見返して。

 だから、姫森は、ぎこちないながらも微笑した。


「……わかった。足手まといは、嫌だもんね。――けど、約束して」


 ん? と見返す早見に、姫森は真剣な目で、


「絶対に帰ってくるて約束して。すーちゃんと、さいほーちゃんを連れて、ちゃんと帰ってくるって……約束して」

「ああ。約束するよ」


 確かな意志をもって、早見は強く頷いた。それから、ふっと相好を崩して、


「そうだな。じゃあ、こうしよう」

「え?」

「“この戦いが終わって無事に皆で帰ってきたら、お前に料理教えてやる”」

「はやみんそれって……」

「死亡フラグ、なんてな。SFだろ?」


 冗談めかして、ウィンクなどしてみせる。姫森は苦笑して、


「本当に、ちゃんと帰ってきてよ。待ってるから――それと、もうひとつ」

「うん?」

「ちょっとこっちに来て」


 なんだ、と早見が姫森の方に一歩近づく。すると姫森はいきなり手を伸ばして早見の肩を掴むと一息に引き寄せて、


「――わ、ちょ、ひめ――」


 数秒、沈黙。

 やがて、ゆっくりと顔を離した姫森が、てへ、っと笑って、


「絶対かえって来いよ!」

「お、お、おう……」


 早見は、今までで一番挙動不審になっていた。その後ろで、半眼の裁縫がぼそっと、


「何があったかは、お察しください」

「……どこの誰に向かって言ってるんだ?」

「まあともかく、ヒロインもこうして待っていてくれるっていうんだ。帰るところと守るもののある奴は強いっていうし、これで後顧の憂いはないね。――行こうじゃないか」

「……ああ」


 頷いて、早見は、玄関の取っ手に手をかけた。

 

 思う。

 つい一か月前には、自分はただの高校生だった。

 それが今では、こんなことになっている。

 不思議なものだなあ、と。


「姫森」

「なに?」

「――行ってくる」


 早見の言葉に、姫森もはにかみながら答えた。


「――行ってらっしゃい」


 扉を開ける。

 

 


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