ひゃく、じゅうよん。
「……お前、何と言うか」
ややあってから、早見が静かに口を開いた。
「大丈夫、なのか……?」
「大丈夫って、何がだい?」
「その……ホムンクルスは、成功しても大抵寿命がかなり短い。魔法じゃなくて科学で生み出されたって言うのなら、それはまた勝手が違うのかもしれないが……」
言いにくそうにしている早見に、裁縫はあっさりと頷いた。
「そうだね。創造当初は、ボクの寿命は長くても一ヶ月がいいところだった」
え、と姫森が驚いて裁縫を見る。すると、裁縫は悪戯っぽい口調で、
「さて、それでは問題だ……ボクは今、何歳に見える?」
え、と早見と姫森は顔を見合わせて、やがておずおずと姫森が、
「えと……15歳くらい?」
「そうだね。外見年齢は確かにそれくらいだ」
「じゃあ、実際のところ、違うんだな?」
「うん違うよ。――ボクは今、本当は2歳だ」
「2歳!?」
本気で驚く二人に、裁縫は頷いて、
「喜べはやみん、ボクはこう見えて、素晴らしいロリだったんだぜ。萌えるだろ」
「やめろ。俺はロリコンじゃない。ここに来て新たな設定を加えようとするな」
まあまあ、と裁縫は肩をすくめる。
「ボクは生まれた研究所でいろいろとあってね。そこを脱走する過程で、自分の身体をいくらかいじくりまわした。その中には寿命も含まれる。――どれだけ延びたかはわからないが、まだ何年も大丈夫さ」
「……そうか。あの天空都市の男がお前を“科学の娘”って呼んでいたのは……」
「そういうこと。人間に親はなく、科学によって生み出され、科学によって生きる者。全く、別にどうでもいいような伏線だけど、回収しないで放置しておくのもよくはないか」
裁縫は、いつの間にか食べ終えて空になっていた食器をまとめて、重ねる。
「だから、どうしてボクがすーちゃんを助けようとしたかと言えば、なんとなくボクに境遇が似ていたからだよ――この世界に身寄りがない、というところがね。まあボクの場合、出身の研究所は脱走するときに潰してきたから、追われることはないんだけれど。実験そのものは盗作を防ぐために秘密裏に行われていたからね」
淡々と、そう言った。そして、
「まあ一番は、ぶっちゃけフツーに面白そうだと思ったからだったんだけど。何せ暇だったからね」
「残念な真相だ……」
「ともあれこれで、ボクの隠し事は全部だよ。これで、だいたい全部の伏線は回収したのかな……いや、まだちょっと残っているか。回収する時間はあるのかね」
他人事のようにそんなことを言って、裁縫は食器をキッチンに持っていく。
「さあ、ずるずると引っ張っているけれど、そろそろ行くよ。――天空都市に」