ひゃく、じゅうに。
「――あ。なあ、裁縫。ひとつ、ここに至るまですっかり忘れてたことなんだけど」
翌朝だ。朝食を摂りながら、何気ない流れで早見は裁縫に話を向けた。
「ん、何だい」
もそもそと米を食べている裁縫に、早見は味噌汁をすすりながら、
「お前、そういえば某機関の下っ端なんだよな。その某機関っていうのがどこかっていうのは別にもうどうでもいいんだけどさ。その機関に、ちょっとくらいの援護を頼んだりってできないのか?」
裁縫がその話をすることがないし、他の関係者も全く登場しないから忘れていたのだが。それともやはり、大きな機関には動きにくいそれ相応の理由があるのだろうか。
「ああ、そのことね」
裁縫は、別に取り乱したりすることもなく、こちらもなぜか忘れていたことを思い出したという顔で、
「無理だね。だってそれ、嘘だから」
早見はすすっていた味噌汁を勢いよく噴いた。
「わ、ちょっと、はやみん!?」
慌てて姫森が早見に布巾を渡す。それを受け取って、激しく噎せてから、早見は、
「ちょ、ここまで来てそんな暴露を!?」
「ふ、これでわかっただろう。ボクが人をして恐怖の伏線回収マシーンと呼ばれているその理由を」
「初めて聞いたけどな。だが確かに恐怖はしたぞ今」
テーブルに撒き散らした味噌汁を拭きながら、早見は半眼で問う。
「……何でそんな嘘を?」
「背後機関の存在というのは、それだけでわけもなく信用されてしまうからね。初対面の状況を思い出してみてくれよ。謎の少女Xがただの謎の少女Xだったら、はやみんは最後まで信用しなかっただろう?」
「初対面の状況を思い出すと、お前がいきなり人の部屋の戸をぶっ壊したことしか思い出せないんだが……」
半眼で見る早見に、裁縫は軽く肩をすくめた。
「ま、可愛い嘘だよ」
「可愛くはねえよ」
「え、それじゃあさ、どうしてさいほーちゃんは、すーちゃんを助けようとしたの?」
布巾を片付けてきた姫森が、席に座りながら訊く。
「それもそうだな。そもそもお前がそうしなければ最初っから水澤さんは捕まってたんだろうし……何でだ?」
「んー……それを話そうとすると、ボクはかなりボク個人に立ち入った話をしてしまうことになるんだけれど……今更、結構どうでもよさそうな伏線ではあるんだけれど」
まあいいか、と裁縫は片目を瞑った。あまり驚かないでくれよ、と前置きしてから、
「――実を言うと、ボクは人間じゃなくってね」