ひゃく、じゅういち。
聞いて、しかし水澤はすぐに答えなかった。数呼吸考えて、
「そうだな」
そう答えた。
「待っている、と言えばまあ、待っているな」
「はっきりしないのだな。迷っているのか?」
「迷っているというか、来てくれなくてもいい、という気持ちもある」
ふう、と吐息して全身をベッドに沈みこませ、独り言のように続ける。
「早見クンや裁縫クン、姫森クンが助けに来てくれるなら、それは嬉しいことだ――だが、三人とも、お前のお陰で一度死にかけているからな」
「来ないかもしれない、と?」
「そうだな。来られないかもしれない――そして、それでもいいとも、私は思うんだよ。ここまで彼らは当然のように私を助けてくれようとしたが……結局のところ、私と彼らは行きずりの関係で、彼らは私に巻き込まれただけとも言える。お前の言う通りに私が異なる時間軸から流されてきた漂流者であるなら、私はこの世界では天涯孤独というわけだ。そもそもが、誰かに助けられるということが奇跡のようなものだったんだよ」
淡々と、独白のように。
「……わからないな」
侍女は首を傾げて、そんなことを言った。
「君は助けてほしいのか、助けてほしくないのか、どっちなんだ?」
「わからないままでいいよ、お前には……私自身、よくわかっていないんだ。――けれど、ひとつ、絶対の自信をもって言えることがある」
また視線だけを、侍女に向ける。
侍女の姿をした天空都市に。
決して力を、意志を、失っていない視線を。
「――聞いておこうか」
「彼は……早見クンは、確かにお前に一度負けた。それも、死んでもおかしくなかったような負け方だ。だから彼はきっと、深く落ち込んでいることだろう。立ち直れないでいるかもしれない。だが」
絶対の確信を。
信頼を以て。
「再び彼が立ち上がることができたとき――彼はもう負けない。お前程度の存在に負けるわけがない。覚悟しておくといい」
言う。
「彼がもう一度ここに来た時――それがお前の、堕ちるときだ」
それはある種、宣戦布告ともとれた。
そして、それを聞いた侍女は――自嘲するように、微笑した。
「そうか――覚えておこう」
それだけ答えて、侍女はまた壁の置物のように動かなくなった。