ひゃくはち。
その日の夕食は、裁縫が言っていた通り豪華絢爛なメニューだった。
正直まぶしい。
というか、三人で食べ切れる分量ではない。
「……伊勢海老、鯛、……キャビア、フォアグラ。節操なく贅沢の極みだが……これ、絶対食べ切れないぞ。残ったらどうするんだ」
「大丈夫だよ、抜かりない。余った分は全部まるっとお姫ちゃんが完食してぷくぷくと」
「ヤだよ!? 食べれないからね!? 私だって無理だからね!?」
「タッパに詰めて冷凍すればしばらくもつからね。何日かかけて食べるとしよう」
「一転して貧乏臭くなったな」
ともあれ、美味しそうではある。復活したため、というわけでもないが、空腹は感じている。いただきます、と手を合わせて、一口。
「――っ」
「どうだいはやみん。――おやおや、今にも死にそうな顔をして。そんなに美味しかったのかい? 喜んでもらえて何よりだよ」
早見は、それを口に入れた途端に両目の焦点を吹っ飛ばし、顔が真っ赤になったり真っ青になったりと傍目にもわかるほど死線をさまよっている。
数秒、そうしていたかと思うと勢いよく水をひっつかみ、浴びるように口の中の物ごと飲み下した。丸呑みだ。
ぜいぜいと荒い息をついたあと、充血した目で裁縫を睨みつけ、
「お――お前、裁縫!」
「ん、何だい?」
「お前は俺を殺す気か!? 何だこれ、何だこれ!?」
錯乱していて、うまく言葉にならないようだ。裁縫は、そんな早見を小首を傾げて見ていたが、ふと、おお、と何かを思い出したように手を打った。
「そうそう、そうだった。すっかり忘れていたよ」
「え、なに? さいほーちゃん、何したの?」
「いや、ほら、はやみん、しばらく何しても無反応だっただろ? だからちょっと悪戯してやろうと思って」
早見の前の料理を指さし、
「さいほーちゃんのドキ☆ドキ!? びっくりデリシャス“この世の終わりみたいな味”シリーズ、第29弾」
「お前そんな鬼畜企画28回もやってたのか!?」
「はやみんを思ってのことだったんだぜ。強い刺激を与えて目を覚まさせてあげようという……まあ、ボクとお姫ちゃんの裸エプロンにも、ボクとお姫ちゃんの生尻にも無反応を貫いたはやみんには効果がなかったようだけれど。全く面白くなかったけど」
「それ姫森もやってたのか!?」
「やってない! やってないよ!! 私はほんとにやってないからね!? やってたのはさいほーちゃんだけなんだからね!!」
「裁縫はマジでやってたのか……」
まあ、もう必要ないみたいだから、取り替えてあげるよ、と裁縫は早見の料理を下げて持っていく。
そして去り際に、ぽそっと、
「本当に、よかったよ。はやみん」