ラヴレター
ひじょ―に困る。
五時間目の授業中にも関わらず、フルマラソンを終えたランナーの様に里沙は汗を流していた。
と言うのも、里沙の机の中に手紙が入っていたからである。
どんな手紙かと言うと。
真っ白い便箋に、里沙さまと書かれていて、裏側はハートのシールで押さえてあったりする。
そう言う手紙はひとつしかない。
もしかしたら、他にもあるのかも知れないが里沙はひとつしか知らない。
そう、ラヴレターだ。(どーしてこんな手紙が私の机に入ってるの!?)里沙の混乱は最もだと言えた。
上村里沙は今年で十八の高校三年生である。ブスではないが美しくもない外見と、明晰ではないが馬鹿でもない頭脳を持つ女だった。別にモテるような奴では無い。それを表すように今まで彼氏もいなければラヴレターなんて貰った事もない。そのくせ、ベットの中では(作者自主規制)な女である。
そんな里沙であるから、いきなり登場したラヴレターに困り果てるのも仕方がなかった。
(とっとっとっと……)
すこしだけ冷静になり、周りの様子を里沙は伺う。
(だっだっだっだ……)いまは国語の時間だ。昭和ヒトケタ生まれの爺様が板書をし、生徒たちはノートをとるのに必死そうだった。
(だっだっだっだれも私に気付いてないよね?)ゆっくりとラヴレターを里沙は机から引っ張りだしてみる。
(うまれて初めての感動かも知れない。
親友の雪菜ちゃんは小学三年生の時に私の目の前でこれを受け取ったのよね。クラスで一番カッコよかった男子から貰って、嘲笑うような流し目で私を見たのよ。あの時は目の前の親友をどうやって拷問に掛けようか考えたものだけど、いまこうして同じ物を受け取ってみると、雪菜ちゃんの気持ちが良くわかるわ)
周囲にいる女生徒たちの後頭部を里沙は眺めた。(スゴい!こいつらが哀れな毛虫に見える!!)
しばらく優越感に浸り終わると、里沙は深呼吸をした。
まだ爺様の板書は続いている。
(宛名を確認しなきゃ)里沙は手紙を裏返した。
(誰からだろう?一番はやっぱり神山くんかな、それとも沢渡先輩かも、朝倉くんはパスね、どうせならカッコ良い男の子だと良いなぁ)
手紙の左下に宛名は書かれていた。
(ん?)
確かに読んだ筈なのに、里沙は読まなかった事にした。
(目の錯覚よね。では、落ち着いた所でもういちど……)
読んだ。
『伊集院・百合樺より』と書かれていた。
ゆりかは、女の子の名前だった。
(あー?)
いっそ宛名を消して、好みの男子の名前を書けば幸せになれるのかと里沙は考えた。
考えただけで、虚しさが込み上げてくる。
(おんなのこですかぁ)
やっぱり親友の雪菜を拷問に掛けようか。
(確かにさぁ、生まれてから十八でさぁ、一度も男の子にモテなかったけどさぁ、だからって、女の子で良い訳じゃあないよぉ神様ぁー?)
里沙は机にラヴレターを戻した。
壁に掛けられた時計を見てみると、もう直ぐ五時間目が終わる所だった。
(返事どうしよう?)
里沙の苦悩をよそに、爺様の板書は、まだ後すこし続くようだ。
ひじょーに困る。
三分で楽しめるものを目指しました。宜しければ感想ください。誉められて作者が元気になって、続編とか描くかもしれません。