表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ「わたあめ警報発令中」

 




「そろそろ時間だな」

 俺は立ち上がると、教室から廊下に出た。

 まだ春は始まったばかりで、ヒーターのついた教室から出るとひんやりとした空気に包まれる。

 ふと、背後からのしっとくる重みを感じた。

「和弘ー。どこ行くのん?」

「入学式の準備だよ。……お前も手伝ってくれるか?」

 肩に置かれた晴彦の腕を払いのけ、俺は言った。

「やだよ、めんどくさい。それにまだ時間あるだろ? 同じクラスになったんだし、もうちょっと喋ろーぜ?」

「何か落ちつかないから。早めに行きたいんだけど」

 入学式の準備が早く終わったからと言って、何かが早まるわけではないが。

「春祭りの学生神輿コンテスト、木村とか井上とか、藤小6年1組が集まってやろうって話出てんだけど、お前もでるよな?」

「……それって今、急いでる俺に話すことか?」

「いーじゃんいーじゃん。で、出るのか出ないのか!」

 拳をマイクのように突きつけられ、俺は勢いで一歩下がった。

「わ、悪いけど……俺、春祭りは予定ある……いや、できるから」

「はぁ? 何だよ、つれねぇヤツだな。もしかして秋祭りで迷子になったこと、トラウマになってんのか?」

「そうじゃないけど……」

 正確には『すごく惜しい』。ちょっと違うんだけど。

「俺、もう行くから!」

 晴彦を突き飛ばし、俺は廊下を走りだした。

「っておい! 廊下走っていいのかよ! お前がいっつも――――」

 しぼんでいく晴彦の声を無視し、俺は体育館を目指す。




 どうしてあの日、あの夜。

 出逢ったばかりの女の子に、花火を見ようなんて言ったのか。言えたのか。

 ただ、あの年で祭りだというのに着飾らず、Tシャツ短パンで来ていたあの子も、祭りに対して俺と同じ気持ちだったんじゃないか……なんて、ちょっと仲間を見つけた気がして嬉しかった。

 だから、誘えたのかもしれない。



「お、佐久間だ。早いねぇ」

 体育館で保護者席の準備していた、教務主任の中谷先生が顔を上げた。

「先生がスーツなんて珍しいですね。教師に見えますよ?」

「馬鹿を言え! これでもちゃんとした教師だ!」

 いやいや。俺は廊下で黄色のアロハシャツを着た貴方を初めてみたとき、頭の薄い公務員のおっちゃんだと思いました。なんて言えるはずもなく、心の中にとどめておく。

「早く来てもやることないが……。マイクの電池の確認がまだだったな。チェックしておいてくれないか?」

「それって先生の仕事なんじゃないですか?」

「佐久間と喋ってるから、時間がなくなったんだ」

「教師のくせに……。口よりも手を動かせって、一体何人の生徒に言ってきたんですか?」

「言いかえす言葉もないな」

「まあ、いいですよ。困っている先生を助けてあげます」

 俺は準備に勤しむ先生たちに挨拶をしながら、舞台袖の機械室に向かった。



 そしてついに、入学式が始まった。

 開会の言葉や校長先生の話……そして。

『続いて、生徒会長の言葉。3年5組、佐久間和弘』

「―――――はい!」

 俺は階段を上がり、舞台に立った。




   ☆★




「まさか、佐久間さんが生徒会長になっているとは思いませんでした」

 驚いたような、呆れたような声で、俺の右隣にいる天竺さんは言った。

 1年昇降口前で待っていた……というより待ち伏せしていた俺は今、天竺さんと一緒に帰っている。

「君が頑張って受験勉強してたのに、俺だけ何もしないで待つのもね。だから、入学式で真っ先に見つけてもらえるよう、あの舞台に立てる方法を考えた結果が、あれ」

「なるほど。じゃあ、私のために生徒会長になったと受け取っていいんですか?」

「そういうことだね」

「……あっさりですね」


 桜区から俺たちの学校は、歩いて20分もかからないところにある。

 歩きながら、俺たちは高校のことについて話していた。図書館にはどんな本があるとか、おもしろい先生のこととか。

「……去年の秋もそうでしたけど、佐久間さんとは学校のことしか話していない気がします」

「たしかに。共通点が学校ってことしか、俺たち知らないもんね」

 気が付けば、もう公園まで来ていた。あの秋祭りのときの公園に。


「天竺さん」


 俺は緊張で上ずった声で彼女を呼んだ。

「はいっ」

 彼女も何かを感じたように、いつもより声が高くなっていた。


「天竺さんのことが、好きです。付き合ってください」

「わ、私も好きです! よろしくお願いします……」


「……早いね」

「こういうのは一気に言わないと、だんだん言いにくくなりそうだったので……」

 お互い緊張して何も喋らなくなったので「帰ろうか」と言って歩き出した。


「……半年前から、この時を待っていました。待たせてしまって、すみません」

「いや、俺も半年前に中途半端なこと言って、ごめん」

「それにしても、会長の挨拶のとき、マイク持った瞬間に告白されるかと思いました」

 くすくすと笑いながら、彼女は言う。

「さすがに俺も、そこまでロマンチックな演出は出来ないよ」

「ですよね。ちょっと期待しちゃいましたけど」

「期待にこたえられなくてごめんねー」

 そして俺は何気なく、何でもないようなふりをして、言った。

「ゴールデンウィークの春祭り、一緒に行こう」

「……! はい! ぜひ行きましょう!」


「今度は、はぐれないようにしないとね」

 俺はそっと、彼女の手を取った。







ここまで読んでくださった方、コメントをくださった方、ありがとうございました!

こんなにスムーズに連載が出来るなんて思っていませんでした…!

これも、読者様のおかげです。本当にありがとうございました。


感想やアドバイスなど、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ