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第三話「カラカラムネ」

題名に深い意味はそんなにありません!


 


 手を除菌した所で、私はベビーカステラを一つ口に放り込んだ。

 まだ熱々で口の中一杯に甘いバニラの香りが広がる。

 ご飯のときはいつもあまり噛まずに飲んでしまう私も、これだけは口の中で溶けてしまうくらいよく噛んで味わった。

「最高ですよね、このベビーカステラ……。もうお店建ててほしいです。毎日通っちゃいますよ」

「そんで、高校の売店でも売ってくれたら本当に最高なんだけどな」

「えっと……聞いてもいいでしょうか」

「何を?」

「佐久間さんの、通ってる高校です」

 あっさりと佐久間さんは教えてくれた。私の家から一番近くて、お兄ちゃんも通っていて……。

「……そこ、私の第一志望です」

「え! じゃあ来年会えるかもしれないね、俺たち」

「そう……ですね」

 もうこれからは会わない、お祭りだけの仲だと思ったら、急にさびしくなってきた。



 口の中でベビーカステラをラムネで溶かし、私はベビーカステラを味わった。

 佐久間さんが買ったのに私の方が多く食べたんじゃないかとハラハラしたけど、気にしないで良いよと言ってくれた。

 なんと佐久間さんとは中学も同じだったみたいで、先生の話やら、体育の時間にやる、オリジナル体操の文句だとかをダラダラと喋っていると、いつの間にか時間は過ぎた。

 そして、アナウンスが流れた。人のざわめきや、ぼやける音声のせいではっきりとは聞こえなかったけど、花火開始だということは伝わった。

「いよいよですね!」

「うん。でも、何年ぶりだろ……。大きな花火見るの」

「何年ぶりって……そのくらい見てないんですか!?」

「小学生のとき、じいちゃん家の近くの花火大会に行ったきり」

 ラムネのビンの中に閉じ込められたビー玉が、カランと鳴った。

「じゃあ久々の花火、楽しい思い出にしないといけませんね!」

「    」


 ――――ヒュッ…バンッ――――


「わあ、すごく綺麗だね!」

「え……あ、はい!」

 とは言ったものの、佐久間さんを見ていて肝心な一発目を見ていなかった私である。花火の音と重なった、佐久間さんの言葉が気になった。……まあ、「そうだね」とかそんなところだろう。

 真っ黒な空に、燃え尽きた火花が塵のように消えていった。見ていなかった一発目は、どんな花だったんだろう。

 空に二発目の花火が上がった。

「牡丹」

 一瞬、私の名前を呼ばれたのかと思ってドキッとした。

「あの花火の名前」

「へぇ……。花火にも名前があるんですね! 他にはどんなものが?」

 それから連続でパパン、と音を立てながら花火は数え切れないほど咲き続け、夜空と地上を明るく照らした。

 佐久間さんは次々に名前を挙げていく。菊や、柳とか、蜂とか。

「花火に詳しいんですか?」

「いいや、本で読んだことあって」

 頭の中が百科事典なんだろうか。それならぜひともその脳味噌が欲しい。


 ふと、頭にピンとくるものがあった。

「……花火って地上に咲く花よりも寿命は短いですけど、たくさんの人に見てもらえますよね」

「たしかに……。なんか、それかっこいいね。自作?」

「はい、ちょっとポエムっぽくて恥ずかしいですけど……」

「そういうのって、考えるとでてくるの?」

 花火を見ていた佐久間さんの顔が、いつの間にかこちらを向いていた。

「考えるというか……浮かんでくるに近いかもしれないです。でも、言葉に表せないんですよね。たとえば……お腹がすいてないのに何か食べたいとか。そういう感情を認識するのと同じ……いや、全然違う……?」

 頭を抱えて考える私を見て、佐久間さんが笑った。

「顔上げないと、花火終わっちゃうよ」

「そう言えばそうですね」

「でも、一つだけ解ったよ」

 手の中のラムネのビー玉が、またカランと音を立てた。


「君の心はすごく透明で、純粋だってこと」


 何故だか解らないけど、嬉しかった。

 思わず口の両端が上がりそうになり、唇をかみしめる。

 急に顔が赤くなったような気がして、俯く。

「花火、終わっちゃうよ」

 冷やかすような佐久間さんの声に、応えられなかった。

 口を開けば、心の中にある想いが、全部溢れて来そうだったから。






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