第二話「カモン☆ベビーカステラ」
サブタイに深い意味はありません!!!
すっかり空は暗くなり、提灯の明かりが眩しいほどにキラキラと輝く中。
私と佐久間さんは今一緒に歩いていた。緊張でガッチガチになっている私である。
最初は怖かったけど、知らない女子中学生に一緒に行こうなんて、普通は言えないし。 友達が行きたいって言ったお祭りにもついてきてあげてるみたいだし、勇気のある優しい人なんだと思った。たとえ今日まで知らなかったとしても、それはさっき知ったことで。けっして不審者ではないはず―――――
「俺、ベビーカステラ食べたいんだけど、ちょっと寄ってもいいかな?」
「……! はい! どうぞ行ってきてください!」
「じゃあ……悪いけど、ちょっとあそこで待っててくれる?」
そう言って佐久間さんが指したのは、市民センターの駐車場に建ってる、野外ステージのベンチだった。もう野外ステージは終わったためか、座っている人はいるものの、ところどころ空いている。
「わかりました!」
私は空いている席を取られまいと、野外ステージまで駆けていった。
戻ってきた佐久間さんの手には、ベビーカステラの中サイズと、ラムネが2本あった。
「ありがとう。ずっと歩きっぱなしだったから疲れたね。はい、これ」
「あ、じゃあお金を……」
「いいよ、こういうときは、男が出さないと」
「でも……借りがあるのは……」
「借りとか貸しとかじゃなくて、俺が天竺さんにあげたいの」
「……じゃあ、ありがたく頂戴します」
ラムネを拝むようにして頭を下げると、佐久間さんの笑い声がした。そして、ベビーカステラを持って座った佐久間さんは、辺りを見て言った。
「人が少なくなってるような気がするんだけど……」
「ああ、花火があるからですよ。みんな、神社の方行ってるんです」
私はラムネのビー玉をポン、と押した。一年ぶりのラムネが、懐かしく思えた。
「そっちの方が、見やすいとか?」
「まあ、それもそうなんですが……。花火が上がった瞬間、神社の鳥居に触れながら願い事をすると叶うっていうジンクスがありまして」
「それを信じてる人が?」
ラムネを一口。シュワシュワっと、口の中が刺激される。
「まあ、大半はそうらしいんですけど……」
私は口に手をあて、こっそりと言った。
「お祭りを盛り上げようって市の計画らしいですよ。市役所職員の父情報です」
「なるほど。大人の事情ってやつか……」
「でも、ここも神社ほどではありませんが、十分綺麗に見えるので私は毎年ここから見てます」
腕時計を確認すると、花火まであと20分くらいだった。
「ベビーカステラ、よかったら食べて」
紙袋の口をこちらへ向けられると、バニラのいい香りが漂ってきた。
「あ、ここのっておいしいんですよね! 毎月スーパーに来てる所の……」
「そうそう。俺ん家でも、毎回母さんが買ってくるの楽しみにしてるんだ」
「いただいてもいいんですか?」
「いいよ。おいしいものは、仲間で食べないと」
「えっと……代金を」
「さっきと同じ。プレゼントってことで」
「……はい」
うーん……お金の話して空気悪くなっちゃったかも。あ、そうだ。
「これ使います?」
私は巾着の中からウェットシートを取り出した。
「すみません、私汚い手で食べるのって許せなくていつも持ち歩いてるんです。あ、汚い手って、自分のことですから! 別に佐久間さんのことではないので誤解なきよう!!」
すでにいろいろと誤解されるようなことを言ってる気がするけど、後の祭りだ。……いや、まだお祭りは終わってないけど。
「すごく気が利くね……。ありがとう」
私の心配は杞憂に終わったようで、安心した。