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7 お道化


 シンの異変が大きくなり、彼に何かを任せると危険な事が知れ渡る。


 通常の情報部の仕事に関しては十六歳で正式な上級士官になった時点で遂行され続ける。

 シンの知識量は通常の学科で行なわれるものを遥かに凌駕しており、手術などの医療技術も最先端の高度医療に精通していた。

 それでも、彼に何かをさせると必ずドジをする為、指示を仰ぐに留まってしまうのだが。



「ぎゃ」


 変な声と共に何故か壁と衝突しているシンを見ながらキフィはしみじみ思う。


「お前、そろそろ潮時なんじゃないの?」


「へ?」


 真っ赤になった鼻を押さえながらシンが振り返る。職務中のため、偶々シンの居るフロアを通ったらこの現状だ。ちょうど補佐官のリュウを撒いて来た所だったのでお互い一人だ。


「何、急に…潮時って?」


「分かってるだろ、その様子じゃお前の脳味噌パンク寸前なんだろ?」


 複雑そうな顔でシンは頭を押さえる。


「そうなのかな? 近頃、体が思い通りに動かない事が多くなったけど…」


 その瞳に濃い翳りが浮かび。

 本当は人には説明できないような変化が始まっていることを予感させる。


「毎日沢山の不要なコエを得てることもそうだけど、僕がちゃんとコエを整理しきれないのも問題だよね」


 どうやってするんだろう、と小さく呟いているシンはしきりに首を捻る。

 シンも最近、身長が伸びて顔つきも大分大人っぽくなってきている。まぁ、女の子のような可愛らしい雰囲気は抜けきれていないが。

 若いその見た目と彼の持つ老成した雰囲気はどこか危険な物だとキフィは思っていた。

 寮が同室ではなくなったためにシンと多く話をする事ができなくなった為、彼がどういう事に苦しんでいるのかゆっくり聞くことも出来ない。

 これでもキフィにとって彼はお互い本音をぶつける事が出来る唯一の人物だと思っている。


「だから、お前は…」


「きゃーっ見つけた! シン! あーっこんな所で出会えるなんてきっと運命よ。私たちきっと赤い糸が繋がってるんだわ~」


 話しかけたキフィをドンっと押しのけるようにして現れたのはジョセフィーヌ。数年前の好意的な要素がことごとく撤回され、今や敵意しか向けられない。


「ジョセフィーヌがシンと運命の糸が繋がってるなら、俺とシンのほうがぶっといのがあるんじゃない? 何せシンと先にここで会ってたのは俺なんだから」


 シンの両手を掴んでぴょんぴょん跳ねていたジョセフィーヌが怒りに顔を赤くして振り返る。


「アンタなんかにシンと居る権利無いわよ! 私のほうがずーっと一緒に過ごしてきたんだから」


「まあまあ落ち着いて、ジョセ何か僕に話があるんじゃないの?」


 険悪な二人にいつもの事と落ち着いてシンが声をかける。

 キフィよりも自分を優先した事に上機嫌になりながらジョセフィーヌはシンに向きなおる。


「そうそう。私、明日からお仕事で北の遠隔地に行くの。だからその前にシンと会いたくて。何かお土産に欲しいものとかある? またその地方の郷土史なんかでいいかしら」


「そうか、また遠隔地に行くんだね。いいなぁ。お言葉に甘えて何か面白そうな本を見つけたらお願いするね」


 にっこりシンが笑うと、ジョセフィーヌも満面の笑みを広げて何度も頷いている。


「気をつけて行ってきてね」


「うん」


 去り際に幸せそうにシンに手を振ったジョセフィーヌは、キフィの隣りを通り抜ける時本当にキラキラと顔を上気させていた。

 準備があると足早に廊下を歩き去ったジョセフィーヌが見えなくなったのを確認して真に向き直る。

 いつも通りの顔で彼は立っている。


「…お前気付いてるのか?」


「ん? 何について?」


「ジョセフィーヌのこと」


 きょとんとした顔で自分を見たシンは、ポーカーフェイスを崩さない。

 これではシンがジョセフィーヌの恋心にあえて触れないのか、それとも鈍感にも気付いていないのかが分からない。

 どちらにしてもシンに応えるつもりが無いことは明白だ。シンは家族くらいにしか思ってないんだろう。

 なんだか犬猿の仲だが、ジョセフィーヌに少しばかり同情する。





 あの後、職務放棄に気付いた補佐官のリュウが現れて結局、部屋へ連れ戻されてしまった為にシンとは話が出来なかった。

 その時にリュウに思いっきり後ろで腕を捻り上げられる自分を見て、楽しそうに微笑んだシンを許すまじと心の中で誓った。

 ベッドに寝転がっていると扉をノックされる。


「入るよ」


 扉へ向かう前に開かれたそこから顔を出したのはシンだった。

 あえて問題児と化しているキフィの部屋を暢気に訪れる事ができるのは彼くらいしかいないだろう。


「来ると思ってた」


「サキヨミ?」


「いや、なんとなく。大体、お前は読めないだよ」


 何重にも能力者への抗体をつくり機密を守るシンの事は、キフィでもほとんど読めない。

 素直に告げたにも関わらず、シンは本当に?と首を傾げる。

 ベッドに腰掛けて半分譲るとシンも腰を下ろした。その顔には静寂を湛えた眼差しが浮かぶ。笑みなどはこの部屋に入る瞬間に失われていた。


「潮時について話そうと思って」


「そうだな」


「僕も本当の所、そろそろかとは思ってたんだ。これ以上無闇に人の記憶を食べ続けると僕の人格は消えてしまうんじゃないかな」


「人格が消える…確かにそうかもしれない」


「…それでも、僕は本当にここを出てしまっても大丈夫なんだろうか?」


「大丈夫だろ。お前一人居なくなったくらいで潰れる軍なんて無くなってしまえばいい」


「軍なんてどうでもいい。ジョセフィーヌやメルのことが心配なんだよ」


「あいつらも十分大人だ。家族ごっことは言わないが、もう一人でも生きていけるのは間違いない」


「そうだよね」


 決して重たくは無い沈黙が二人を包む。

 何かの踏ん切りがついたのかシンは自分の指先を見つめていた視線を上げる。


「軍を出るよ」


「じゃあ次の外での仕事時になるな。確か、情報部は明後日に向けて準備してんだろ」


「よく知ってるね…でも、そんなに早く?」


「一刻も早くだな。俺だって明後日から南の戦地に派遣される予定だっつーの」


「キフィにはできても…ジョセフィーヌにお別れの挨拶できないじゃないか」


 まだまだ甘いことを言うシンにキフィは小さく溜め息を吐く。


「あのな、お前が馬鹿正直に別れの挨拶してみろよ、ジョセフィーヌがお前を離すはずが無いじゃん。少なくともジョセフィーヌが居ない間に軍を出ろ」


「そうだよね…あぁ、キフィのことも何だか心配なんだけど」


「…お前に心配されなくても俺はここでやっていけるっての。後々は俺様が居ないと能力者の館について語れないくらいの逸話を打ち立ててやる」


 頼りないシンに何故自分が心配されるんだと若干憤慨しながらも、十分におどけてみせる。


「キフィは何も心配要らないね。キフィとはこれっきり会わないっていう気がしないし」


「まあな」


 キフィもこれで一生会わないとは思えない。

 彼とはきっとどこかで会うのだろう。


「この俺様が明後日のことについては徹底的にサキヨミをしてやる。それを使って逃げるんだ」


「ありがとう」


 シンは満足そうに口元を緩めた。




 翌日、キフィとシンは軍を抜け出してこれからのために支給品ではない衣料品をそろえた。

 シンが一目惚れして欲しそうにしていた白い上着をゴリ押ししておいた。きっとシンのことだ一日あれば泥まみれになるだろう。それはとても想像するだけで愉快だ。


 軍の中では汚れてしまった上着など次の日には新品同様になって戻ってくる、そんな物は全く楽しくない。

 シンはこれまでの十六年間に経験したこともないような体験をこれからきっと沢山するのだろう。

 順風満帆、何でも上手くいって欲しいなんて思わない。

 失敗ばかりしてでも自分で見つけた道をシンが歩けばいいのだ。



 キフィ自身だって、これから思う存分やらせて頂く予定なのだから。


 


                 おわり

ここまでお読みいただきありがとうございました。

プレセハイドシリーズのシンとキフィの二人の物語でした。

彼らがいかにして親友?になったのか、どうしてシンが軍を抜けることになったのかを書いてみたかったのです。

シンが脱走していなければ王都のプレセハイドシリーズはもう少し違う話になっていたでしょうね…。


兎にも角にも、彼らはプレセハイドシリーズの最初に生まれたキャラクターだったのでここにUPできて良かったです。

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