1 一人遊び
じっと何も無い一点を眺める。
それは考え事をするときの自分の癖のようなもので傍からどう見えているかなど自分にとっては関係ない。
それに今は自分が座っている椅子以外何も無い個室に閉じ込められている状態だ。まぁ、部屋の隅に見張りの若い男が立っているが自分にとっては居ないも同然。
変わった蜂蜜色をした瞳が一瞬だけその男を写し何も認識されずに通り過ぎる。
ふと、これから始まる全体的に愉快にはならないだろう生活を楽しすぎる物に変える方法を思いつき幼さの残る顔にふさわしい笑みを浮かべた。
キフィ・クレイ、それが彼の名だ。
金の癖毛と端整な配置の少しつり気味の目、その右端にある泣きボクロは彼に色気を含ませる。
この半年、キフィがこんなにも無邪気な笑みを浮かべることは決してなかった。
それは彼の生まれ育った村が重大な危機を迎え、村の全権をその幼い手で全て掌握するという責任に寄与するだろう。
大人に頼る事が上手くできなかった彼は自然子供らしさをなくしていた。
元々大人びた子供だった。
父の書庫にある文献のほとんどを読み漁り、将来は自分で行なう村の運営を構想していた。
一つ違いの妹に縋られて幼い遊びに付き合い子供らしい表情というものも演じられた。そうして可愛らしい妹といることも苦に思わなかった。
彼女がそうしたいのならばとことん付き合い自分も心底楽しもむ。両親や妹を自分と同じにいやそれ以上に愛していた。
それなのにキフィは今、村から何日も馬車に揺られ汽車に乗りここにいる。今ついたばかりだ。
レアムドザインにあるマム=レム王国軍、能力向上・研究科学局(通称・能力者の館)の一部屋。プレセハイド村の大人たちが嫌悪し敵対し続けた軍の本部。
自分の運命に少し呆れていた。村の為と生きてきた十年と少しのそれは全て無駄だったのだ。
この場所で自分は無為に過ごすのだろう。一生をここで終えてやろうというお優しい心がけは露ほども無い。それでも自分の中での条件が揃うまでは去ることができない場所。
それならば、両親も妹もいないこの場所で自分は思う存分楽しんでやろうじゃないか。
自分しか居ないのならば誰にも迷惑をかけることも無い。それは最高の楽しむ環境を作っていくことが出来るということ。その想像に背中がゾクゾクしている。もちろん恐怖などではなく興奮で。
ふと目線を上げる。
表情は先程の笑みを浮かべたままだ。視界の端で自分の顔に見とれている男、兵士を捕らえる。そうだ、そうやって自分に騙されるがいい。
そろそろだ、と入り口の扉を見つめた。
予想、いや決定事項であるその足音は近づいてくる。二人分だ。
扉が開かれる。
そこには白衣に将校用だろう制服の初老の男と灰色のやたらと肩や胸元に装飾が多い軍服を着た年上の少年が立っていた。
白衣の男のねっとりした視線で全身の観察されて悪寒を感じるがキフィは平然と椅子に腰掛けたまま足をぶらぶらとさせた。
部屋の隅にいた兵士が敬礼をすると、目線で彼を追い出す。
「立ちなさい」
素直に指示に従い、立ち上がる。
それまで何も写していなかった少年の灰色の瞳が自分を捉えるのが分かる。
「リュウ。今日は紹介だけだが、この子が君の担当するキフィ・クレイだ。能力はサキヨミ、まだ十三歳と幼いがこの軍の保有する特別能力上級士官に引けを取らないはずだ」
「かしこまりました。アルファン統括殿」
リュウといわれた少年は淡々と無表情に答えて頷いた。
年齢は自分と五歳とも違わない彼が自分の担当になると言う事は、彼も実力者なのかもしれない。
キフィはあえて彼を見上げた。彼と目が合った瞬間、手を差し出しながら子供独特の純粋な笑みを広げてみせる。
「よろしく」
キフィの手を彼が取った瞬間、彼の中で確定した。全てはこのリュウで決まると。これからの遊びの序章に思わず頬が緩み、にんまりとリュウを見つめた。
これからだ。
これで楽しく生きていくのだ。