現実は小説より奇なり、とは言うが
「それじゃあ大輝、おばあちゃんによろしく伝えといてね」
「分かった」
毎年、夏休みになると田舎のおばあちゃんちに行く。僕はもう一人で留守番くらいできるのに、母さんは「まだ小学生だから」と言って聞いてくれない。確かにまだ小学生だけど、僕だってもう五年生。一人でも大丈夫なのに。
なんてぶつぶつ文句を言いながら歩いていると、おばあちゃんが少しむこうで手を振っているのが見えた。僕も振り返した。
のどかな田舎の田んぼ道を二人で歩く。それから、おばあちゃんちまでの途中にあるコンビニでアイスを買ってもらった。
「大輝、今日の晩ご飯は何がええ?」
少しの間、考える。特に食べたいものが思いつかない。
「カレーが良い」
小学生の好きな食べ物ランキングで常に上位にいるカレー。困ったらカレーと答えておけば良い。
「大輝はカレーが好きやねえ」
なんだか、毎年同じ会話をしている気がする。……まあいっか。カレーが好きなのは事実だし。
晩ご飯を決めていたら、あっという間におばあちゃんちに着いた。相変わらず大きな屋敷だ。おじいちゃんが居なくなってからは、より一層寂しくなったな。
「晩ご飯まで時間あるんやから、大輝は友達と遊んでき」
「うん」
荷物を置いてすぐに外へ出る。友達、といっても夏にしか会うことのない友達。何を話そうか、と今から考える。
でもまあ、どうせ夏休みの間しか会えないんだし、目一杯遊ぶつもりだ。
「夕暮れには帰ってきなな」
おばあちゃんのその言葉を背負って、一気に駆け出す。夏の空気が気持ちいい。東京とはどこか違う匂いがする。田舎も案外、悪くない。
「じゃあまた明日な!」
「うん、またね」
そう言って、友達に別れを告げる。みんな去年より少し変わっていたような気もした。僕の見えないところでみんな、どんどん成長してるんだなあ。寂しいような、ちょっと嬉しいような、変な感じ。
日暮れにはまだ早いけど、お腹も空いたから帰ることにした。コンクリートもない田んぼ道を一人歩く。リズムにのってみたり、大股で歩いてみたり。ここでしかできないこともたくさんあって、意外と楽しい。
突然、ドンとぶつかる音がした。足元ばかり見ていて、前に人がいることに全然気が付かなかった。
ごめんなさい、と謝る前に相手の人が僕の手を掴んできた。
「坊や、これから帰るんだろう。わたしも連れて行ってくれないか」
どうやら僕の手を掴んだのは、猫のTシャツを着た中学生くらいの女子みたいだ。
「はあ? ……連れてくってどこに」
「当たり前だろう。坊やの家さ」
「なんで……?」
「お腹が空いたからさ。腹が減ったら家に行くのは常識だろう?」
そんなの聞いたこともない。この女の子はどうしても僕のおばあちゃんちに行きたいらしい。
でも正直、怪しすぎる。僕の勘が必死に告げているんだ。この女の子は何かおかしいって。だって考えてみろ、小学生の手を掴んで「家に連れてってくれ」と言う中学生くらいの女子。小説の中でもないと起こらないことだ。
「僕はもう帰るから。離せよ」
すると、あっさり手を離した。なんだ、話は通じるのか、と少しホッとする。けど、嫌な予感はまだ消えない。あの女子は何も喋らないが、目が物を言っている。
ここは逃げるが勝ち。不気味な女子は放って早く帰らないと。猫のTシャツもなんか怖いし。絶対関わらないほうが良い。
おばあちゃんちに着いて、庭の飛び石を駆け抜け、爆速で扉を開けてすぐに鍵をかける。のぞき穴から外を見ても、さっきの女子は見当たらない。どうやら無事に撒けたようだ。
「ただいま」
そう言い、靴をぬいで上がると
「ああ、遅かったね坊や。もう待ちくたびれていたんだ」
あの声が縁側のほうからしてきた。どうして。なんであの変な女子がおばあちゃんちにいるんだよ。僕が走って逃げたときに、一歩も動いてなかったじゃないか。まさかこいつ、エイリアンか何かか?
「おかえり大輝。もうすぐカレーできるから手洗ってきなよ」
おばあちゃんはなんで平常運転なんだ。知らない女子が家にいるのに、なんで。
「ちえ、わたしはお腹が空き過ぎてもう耐えきれないんだが」
「もうちょっと待ちいな。カレーは逃げへん」
おばあちゃんとあの女子は友達みたいな会話してるし。逆に僕がおかしいのか?
「ほら坊や、早くしないとわたしがカレエを全部食べてしまうぞ」
まだ状況は飲み込めてないものの、カレーの魅力には逆らえない。大人しく手を洗い、席についた。横には謎の少女が、カレーを前に目を輝かせている。
はあ、とため息をつき、手を合わせる。
「いただきます」




