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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 54

「うっ……え……」

 

 絶望的に、えずく。心に伴い内蔵が痙攣して吐き気を催す。

 倒れた鉄塔に、数えたくもないほどの人体が転がっている。どれもこれも苦しむ間もない程の致命傷を負っていた。

 ゴア映像を多用する雑なホラー映画の様な容赦のない死体の羅列が視界に映る。


「助けなきゃ……」


 この世界の事をまだまだ知らない。少なくともマホレコには死者蘇生の魔法は存在しなかった。

 ハジメも死者蘇生魔法は使えない。でも、大怪我は治せる。まだ間に合う被害者を探して、助けなければならない。ハジメにはそれが出来るだけの力がある筈なのだ。


 使命感じゃない。ただ、その場に居合わせたなら、助けられるだけ助けるのだ。

 こみ上げる胃液を無理矢理抑え、一歩二歩。ふらつく足で進んでいく。

 するとだ。

 目の前に一人の中年が立ちはだかった。


「……なんだい君――貴方は。退いてくれない?」


 白髪交じりの短髪顎髭。眼鏡の奥の灰色の瞳は泣き出しそうにも見える。眉から目、頬に掛けて入った縦の傷跡も見方によってはダンディと表現できなくもない、そんな背の高い中年男性だ。

 この瞬間に出会わなければ、『わ、かっこいいおじさんだ』だなんて思ったかもしれない。

 けれどタイミングが悪く、しかもその行動はハジメの行き先を邪魔するものだ。当然印象は最悪である。

 そんな最悪の男は退く気配はなく、あまつさえハジメに話しかけてくるのだ。


「助ける必要などないよ。誰一人ね。怪我をした者は死んだ者。無傷の者は生きる者。だからね」

「……貴方、何か用があるの?」

「君に用があるな」

「……私はない。退いてくれ」


 煩わしいながらも、会話をしてしまうのは薄々感じ取っているからだ。

 目の前の中年は、この状況の何かを知っていると。


「どうやら気付いているようであるな。そうだともこの状況、小生が関わっているぞ」

「……まさかとは思うけど。これを起こしたのが。ってことでいいかい?」


 こんな問答をしている時点で。

 半分以上、実はまさかはあり得ると持っている。

 半分以下は、こんなにたくさんの被害者を出しておいて平然としているなんて、そんな人間がいる事が信じられない気持ちが、少しだけ。


「ふむ。か細い目つきだ。問われれば答えようではないか。その通り。起こるべくして起きた悲劇だ。悲しい事に随分死んだようであるな」


 纏う雰囲気と言葉の様子が噛み合っていないにも程がある。世の中に諦念したような灰色の瞳には、哀しみの色など何一つない。それどころか、読み取れる感情は諦念のただ一つのみ、他の一切合切存在していないようにすら見える。

 だからこそ、喜びなど憶えられても不快だけれど、だからこそ。ハジメは目の前の男に不快感を覚える。


「殺したって言うなら、自首したら? それとも、私に叩きのめされて警察に突き出されるかい?」


 言いながら、既にハジメはこの目の前の人物を捕縛する事を考えている。加減を間違えて自分こそが殺人をしてしまわないようになどと思いつつ。こんな状況でこんな男と対峙するのに、その実力差を感じ取ると一方的になると確信してしまい、奇妙な冷静さがハジメに去来していた。


「殴り合いがだけが殺しの実力だと思っているようであるな。その概念の内に、しっかりと芽を摘ませてもらうとしよう」

「……そ」


 舌戦の経験のないハジメは負け惜しみの様な台詞を返してしまいそうで、ただ興味のないように短く言うだけだった。

 そんな駆け引きなんて無視して、問答無用で叩きのめしてしまえばいい。そうと思うが、なぜこんな事をしたのかを聞き出さなければならないとも思っていた。


 だって、生存者はもういないと確信してしまっているから。

 被害者をこれ以上出させない事と、この男を逃がさない事、なんでこんなことをしたかを知る事が重要だと思ってしまったから。

 この男の目的を知ることで、もしかしたらこれから起こりうる未来の悲劇を抑制する事が出来るかもしれないと。

 

 それは自分が特別だと思っているからという驕りでもある。柄にもなく、あるいは万能の力を持ったと言う自信と共に素が出てきているのか、ハジメは他人の不幸を見逃す事に小さな罪悪感を抱くようになっていた。だって自分がちょっとだけ頑張れば、理不尽な暴力による不幸は跳ねのけられるのだから。


 ――この世界にやってきたのは何か理由があると思ってしまっている。この世界をある程度知ってしまっているから、自分にしか知り得ない情報で、自分にしか守れない何かがあるのではないかと。

 この考えはきっと危険な物だと頭のどこかで警鐘がなるので、普段は抑えていられるが、事この場面においてはそのブレーキは利いていなかった。


 これ小さな事件ではない。これほどの規模の事件は最早災害だ。これ以上の被害を食い止めるのは、ハジメにとって当然のものだった。

 まずは、この人物がハジメの知識にある人物なのかどうかが知りたい。名前一つで大きな情報になる。知っているのなら何が起こるか、何をしでかすのか。起点となる人物なのか、それとも作用点となる人物なのか。世界中でハジメだけが理解できる情報精査が出来るのだ。

 知らないのなら手の施しようもないので捕縛し、放置し、人命救助に勤しむだけだ。


「その口ぶりだと、私を殺したいみたいだね」

「ふむ。その通りであるな。君も殺したいと考えているとも」

「……私、貴方に恨まれる覚えはないんだけどな」

「個人的な恨みはない。異世界人には善良な物もいるのだからな。だがしかし、異世界人死すべし、例外はなく只々死すべし。これが答えであるな」


 その言葉でようやく、糸口を見つける。この頑な思想、異世界人を無条件に殺したがる過激さ。この要素はハジメの知識に引っかかる物があった。

 その心当たりは、今までの様な確信的な物ではなくて、その行動理念には聞き覚えがあると言った程度である。顔も実力も、何をした――する人物なのかも実は知らない程に、馴染みはない。


「鬱船……カフク?」

「ほぉ……、小生の事を知っているのかね?」


 初めて鬱船の余裕ぶった表情が崩れた。 


「最近は隠れる事も飽いて名も知られ始めている。ならばこの世界の歴史が浅い君が小生の名を知っていても驚くまい」

「これでもこの世界になじめるように勉強しているんだよ」


 嘘であり、本当である。いつ帰れるか解らないのだからこの世界の勉強は真剣にしている。ただ、鬱船カフクという名前はこちらに来てから学んだものではない。

 むろんゲーム内での話である。しかし前述した通り、詳細を知らないのだ。ゲームの運営チームから名前だけが公表された存在で、その実装は多くのプレイヤーから待ち望まれていた。過激な思想を持つヴィランで異世界人絶対殺すマン。非常に強いと言われていて、中級クラスの難関、あるいは上級者たちとっても気を抜けない敵だと噂されていた。


 倒した時の報酬。特別勝利条件が満たされた時のトロフィー。課金要素のコスチュームデザインのレシピや、新たな能力構成に対する期待など、プレイヤー間で話題になっていた。


 結局実装前に、こうしてハジメはこの世界に来てしまったので、鬱船カフクの詳細はほとんど知らなかった。

 こんな見た目だったのかと、この場において初めて鬱船カフクを認識していた。


「で、あるならば無駄な勉強だな。この世に異世界人が居つくなど、許されない事なのだよ」


 感情を見せた鬱船の言葉は、心なしか先ほどまでよりも思想の偏りが顕著に表れている。それほどまでに異世界人へのヘイトが高いと言う現れなのだろう。


「……なんでそんなに異世界人の事が嫌いなんだい? もっと仲良く出来ないかな?」

「善人悪人に有象無象、一切合切のその他大勢、何人たりとも異世界人である限り、この世界残る事は許されない。これ以上は語るべくもないのだよ」


 鬱船がハジメに向けてくる嫌悪感が露骨すぎて対話の余地はないのという事だけが際立ってしまう。そうと理解した、この時点で他の情報を探る事は諦める。


「そっか、でも――」


 鬱船の周りにすらある人の死体。ハジメの視界には崩れたビルと死体が同列となって転がっているのだ。


「これのどこが異世界人殺しだっていうんだい? 無差別じゃないか」

「ふむ?」

「異世界人と一緒のホテルに泊まったら殺すのかい? それとも異世界人を殺せるならこれだけ無関係な人を殺してもいいって? 貴方の――お前の行動は美学に欠けるよ。ただ無差別テロだ。そして何より、私が生き残っている。異世界人以外を殺して、異世界人である私はここにいる。なんだ、無差別テロな上にターゲットも殺せない三流じゃないか」

「真実を突けば確かに良い挑発になるのであるな。だが、真実ならばだ」


 鬱船は不機嫌そうな様子のまま、しかし穏やかな口調で言い返してくる。


「長く語るのも時間の無駄であるからにはこれにてお終いだ」


 終わりを告げる鬱船の身体の周りを、どこから現れたのか赤黒い輝きを放つ蝶が舞う。

 宝石のような魔力で出来た蝶々。

 いや、これは魔力だろうか? 魔力ではないなら何なのかとは言えないのだが。

 つまりは鬱船の得体のしれない力で作られた蝶だ。それが魔法であれ謎の能力であれ、鬱船が作り出したという時点でそれが善意の物体ではない事は確かだ。


 そう予測を立てるがこれ以上は不明だ。

 飛んでいく蝶々が解らない。それが攻撃手段なのか、逃亡手段なのかすらも、解らない。

 この世界での戦闘経験がある人なら、スマートに臨み、鬱船に余裕ぶった顔をさせる事もなかっただろう。

 

「――お終いなら話が早いや。話す気がないんだろ、お前」


 あえて強い言葉を選んで使った。

 蝶がどんな魔法なのかは不明。ただ、ここに至るまでにハジメに傷一つ付けられていないのだ。しかも動きは緩慢。触れられなければおそらく害はハジメに届かない。

 この蝶に対する警戒は、ハジメの眷属である三匹がすでに始めている。ならばもうこれに意識のリソースを割くのは得策ではないだろう。


「お前はこの場で無力化させてもらう」


 蝶を気にするよりも、そもそも蝶を作り出している存在を倒してしまえば解決である。

 問題はその手段であるが……じれったいので、気絶させればいいかと雑な事を考える。そして、それの実行は秒読み段階だった。

 空気中に魔力を飽和させ、空気を破裂させてその衝撃波を利用すれば――そうと思った矢先に鬱船が口を開く。


「そうそう。先ほどの話だが……感じとっているのではないかね? 皆死んだのである……そう、この場にいた異世界人だけがね。唯一の例外は、狙った筈の君だけであるな、異世界のお嬢さん」

「……なんだって?」


 露骨にハジメの興味を引く為の言葉だ。そうとは解るのだが、まんまとハジメは鬱船の言葉に意識を向けていた。その為鉄塔が倒れた余波で電線が千切れた事にハジメは気が付かない。連鎖して電柱が折れて傾いていた事も、さらなる暴風で折れ倒れた電柱が紫電をまき散らしながらハジメに迫っている事にも、当然気が付いていなかった。

 しかも、それは風音やサイレン、喧噪に埋もれてほぼ無音。獲物を捕食する爬虫類の様に静かに鋭くハジメに迫る。


 その太いコンクリートの塊は無防備なハジメの頭部へ――触れる事無く消え失せた。白猫のヘルの青い瞳が一睨みしただけで、鉄筋コンクリートの塊は粒子状に崩壊し、ハジメに触れることなく風に消えていく。


 その後も、動揺して動く事も忘れたハジメの周りでは奇跡的な不幸と、それへの当然の対処が繰り広げられる。事故の衝撃で緩んだ看板がギロチンの様に落ち、ヘルが睨んで拳より小さな塊になるまで圧縮させる。破裂した水道管に高圧電流が流れても、ヘルが全ての水を蒸発させる。爆発によって瓦礫が猛スピードで飛来しても、ヘルは当たり前の様に対応した。残る二匹はハジメの足にまとわりついて周りに見向きもしない有様である。


「――これは驚いた。その猫は一体何であるのかね? なるほど、道理で生き残る訳だ」


 全く感情が伴わない表情ではあるが、言葉で驚きを表明する。その鬱船の態度も今のハジメの神経をさらに逆撫でした。


「気のせいかな? 私を狙って……こんな事を――他の人を巻き添えに殺したって言ったようにも聞こえたんだけど?」

「ふむ? そうだね。転移者は偽善者な事が多いのであったな。質問の答えは否であり応である。他の連中も逃がすことなく殺すつもりだったが、逃がしたくないのは君であった。他に死んだのは、まぁ事のついでであるな。小生の計算では、巻き込めば巻き込む程、逃げなくなるのが君と言う転移者なのでね」

「……私を、狙った理由、訊いてもいいかい?」


 自分でも驚くほど底冷えした声が口から洩れた。

 足元で主を慰める様にまとわりついていたメアとホプレスが、ぴたりと止まって見上げるほどに。


「優秀な転移者が生きている事は許されない。ただそれで足りないかね?」

「遺言になるとしてもかい?」

「それはまた面白い強がりであるな――」


 馬鹿にするような声音に、ハジメの苛立ちは加速度的に増す。


 魔法が発動して瓦礫が宙に浮かび、高速で移動をし、寄り集まり、ぶつかりあって削れ、刃の様に研ぎ澄まされて、鬱船の四方八方をぐるりと取り囲む。

 その上で鬱船には触れずにピタリと止まり、瓦礫の刃による全方位から迫真の威嚇がなされる。

 

「ふむ、視覚的に脅す。単純にして効果的であるな。して、殺す勇気はあるのかね? 殺すと言うのなら、ここか、ここか――オススメはここ。的が大きい。あるいは小生に刺さる確率もあるだろう。うむ、ここにしたまえ。ここだ」


 まったく怖気づく様子もなく、鬱船は自身の額、喉、最後に胸をトントンと叩く。

 

「あまり挑発しないでくれないかい? 今とても気が立っているんだ。本当にぐしゃりといっても、構わないんじゃないかと思う位にはね」

「ならばいけばいいのである。口だけお嬢さん。元の世界でも人殺しなどしていないのであろうな? 少しでも冷静になってしまったからには、もう殺せはしないだろうがね」


 見透かしたように薄い笑みを浮かべ、なおも挑発を重ねる鬱船にハジメは言い知れない怒りを覚える。だがその通りに殺意を抑えていた。いっその事激情のままになれたらよかったのにと思っているのだから、その敗北感は増すばかりだ。

 だから大きくため息を吐く。深呼吸をしているとばれているかもしれなくても、まずは大きく酸素を吸いたかった。


「そう。挑発に乗ってあげないよ? 殺されない為の臆病な虚勢なら、成功しているよ。良かったね」


 瓦礫の刃は形を変える。一瞬で鬱船との距離を詰めて接触し、その身を拘束する茨の鎖と変貌した。


「裁判になれば死刑。死刑がなくても終身刑。もしかして懲役何百年? だったらお前ごときの雑魚。私が手を汚すまでもないだろ?」


 怒りを隠すことなく、それでもギリギリで理性的に、ハジメは拘束された鬱船に思いつく限りの挑発的文句を言う。自分を善人と騙るつもりはないが、それでも自分を理由に何人もの他人が殺された事は、本当に許せなかった。


「お優しいものだ」


 拘束されたままの鬱船から放たれる他人事のような一言は、たったそれだけで多く語ったハジメをやり込めてしまう強さがあった。

 挑発にギリィっと音を立てて奥歯を噛みしめたハジメに対して、失望が結晶化したかのような目玉を向けて鬱船は更に言葉を継ぐ。


「しかし、その優しさはただの隙に過ぎないのであるな」


 言霊が消えるかどうかの境目に合わせる様に、風が吹いた。

 蝶が舞った。

 そして、空から音がした。


 無視するにはあまりにも大きい、エンジンの音。プロペラが風をへたくそに斬る、空回りの音。

 何の事故が起きたのかヘリコプターがハジメを圧し潰そうと、降ってきた。

 

「今は引かせてもらうのである。しかし、だがしかして君は殺すと明言しようではないか。今日ではなくとも必ず、必ず……必ず殺す……」


 ヘリコプターがハジメに激突するその直前、淡々としながらも不退転の意志を感じる声がはっきりと届く。空気の揺らぎの隙間を縫うように、小さな声は一言一句洩れずにハジメに伝わった。


 ヘリコプターの激突程度で逃がすものかと思ったが、角度の関係か、ハジメとヘリコプターのパイロットの目があう。

 絶望すら理解できずに驚愕し続ける表情。助からない。理屈は不明だが鬱船の所為で、そしてハジメを殺す為にその命が使われる。


 その運命はハジメ以外には覆せない。


 すなわちハジメならば覆せる。


 ――即座に生み出される魔法。

 形状構成。網状。

 強度。鋼鉄同等。

 靭性。ゴム同等。

 アンカー。魔力による空中固定。

 その他即時に展開する魔法のイメージ。同時に発動する魔法。


 魔力は包み込むように機体を覆い、機体に網目状の亀裂が入った瞬間に判断する。構成を変更。布状へ。

 勢いを殺すのは破壊するよりもはるかに難しく、生卵や豆腐を指でつまみ上げるような繊細さで鉄の塊を受け止めていく。


 最早十メートルもない上空からハジメまでの距離、その到達する僅かな時間に変幻自在に組み上げられた魔法は、鉄の塊を受け止める。

 距離が短すぎるから急に止めたら中の人間は死ぬ。なので地面すれすれから燕の飛行のように弧を描いて、重力によるエネルギーを殺し、進行方向に人がいない事を意識しながら瓦礫が平に並ぶ地面に不時着させた。


「ちっ……逃げられた」


 鋭い舌打ちはするものの、パイロットは無事だ。コックピットの中で気絶している。

 ハジメは無傷。どこにも怪我をしていない。三匹の片目猫が心配そうに見上げている。

 消防車、救急車、パトカー。多くの人が集まり、地獄絵図を目の当たりにして騒めきだけが増していく。


 その中で、鬱船カフクは姿を消していた。


 瓦礫で出来た拘束具はボロボロに壊れ、地面も鎖を引き抜いた跡なのか抉れている部分がある。

 そう簡単に壊れる物体ではないつもりだったが、意識が逸れた瞬間を狙われたのか。得体のしれない攻撃以外にも、ハジメから逃げる手段を所持している事は解った。そして、その逃げはギリギリであったこともわかる。拘束具の一部、具体的には左足部分を止めていた筈の箇所には血がこびりついている。無理矢理外したから傷付きそうなったのだと予想出来た。


「――……私を狙っているなら丁度いいな。次は逃がさない……。償いきれない罪を無理矢理償わせてやるさ」


 怒りを湛えるハジメは呟き、そして魔力を込める。周囲一帯の瓦礫が浮遊し始め、下敷きになった、無残な姿になってしまった宿泊客たちが露になる。


 ホプレスが見渡す。その瞬間に、やはり本当に生命がいない事を理解した。

 瓦礫がどかされ、駆けつけた消防と救助隊が救助活動を始めるが、そこから生存者が発見される事はなかった。

 鬱船が言った通りに誰一人として生きていないという発言は、ハジメを傷つける為だけの言葉ではなかったのだ。

 ホプレスがあたかも遠吠えのようにナァと鳴き、それは鎮魂の祈りの様だった。



投稿ペース落ちます。


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