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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 47


 子供達を部屋の中央に集める。

 女の子一人を抱きかかえ、足には男の子達がしがみついている。他の子供達も全員ハジメに群がっていた。

 これは洗脳魔法などを用意した訳ではない。ただの追いかけっこをした結果である。


 逃げて怯えてる子供達であったが、一人捕まえたら部屋の中央まで連れていき、また誰か一人を捕まえに走る。一瞬で捕まえては一瞬で戻るという反復運動を繰り返したのだ。


 するとどうだろう。子供たちは遠くに逃げたと思ったのにいつの間にやら部屋の中央にいる。ハジメ以外の誰の目からも魔法の様だっただろう。この不思議現象が、子供たちにとっては面白い。

 ポイントは捕まえた子供たちを拘束しない事。

 いつでもまた逃げられる事。


 捕まえた子供に飛び切りのスマイルを向けて、頭を撫でて、そしてヒュンッと消えてヒュンッと戻ってくる。


 当初は再び逃げる子供ばかりだったが、繰り返すうちに子供はハジメの動きに見惚れ、優しい笑顔に頬を染め、構ってほしそうに逃げ出しては捕まって、こちょこちょと脇をくすぐられ、そしていつの間にやら捕まった仲間が増えていく。

 危害は加えられないし、全員を等しく構い、笑顔にさせるのだから懐かれるのは世界記録のようにあっという間だった。


「ふぅ。さー。全員捕まえたぞぉ。どうだい。楽しかったろ?」

「うん!」

「たのしかったー」

「つかれたー!」

「ハジメちゃんもっかいやって!」

「んー。でも秦飼さんもいないしね。そろそろ帰ろうかなって思っているんだ」

「えー!」

「やだー」


 子供たちは喧々囂々。親の事を持ち出さなければ煩い位の笑顔が咲き乱れている。こんな笑顔が見られるならば、誘拐監禁にも功罪が存在するのかもしれないなどと、不謹慎なことを考えてしまう。育児放棄をされた子供を見つけ出す嗅覚だけは、恐ろしく鋭いと評価せざるを得ない。このままうまくすれば、この子達に不要なトラウマを与えずに、『人生で一番食べ続けた日々があった』という不健全ながら楽しい思い出だけが残るのではないだろうか。

 不謹慎を極めてそんな事すら思うのだ。

 

「帰っちゃうの?」

「ハジメちゃんもここにいようよー」

「んー。じゃあ今度また来るよ」

「ほんとっ!?」

「ホントホント。今度またね」

「今度っていつー?」

「今度は今度だよ?」


 彼らが傷つない程度にはぐらかしたのは、もちろんわざとだ。

 釣りの気分だと自分に言い聞かせる。少しずつ誘惑して、餌に食いつかせて引き上げる釣り。

 一人吊り上げられたらじゃあ自分もと言い出してくれると信じる。勝手に糸に絡まって芋づる式にみんなが一斉に動くのが理想だ。


 そうなるようにハジメは言葉を選び、寂しそうな子供に視線を向けて、そして強気そうな子供をかわいがる。頭をなでる。嫉妬心の塩梅すら、魔法のようにコントロールしたいと思っていた。

 功を奏して今、子供たちはハジメともっと遊びたい。別れたくないと駄々をこね始めている。そしてあと一押しで、連れて帰る事は出来ないまでも見送りと称して地上にまでなら来てくれそうである。


 外に出してしまえばあとはどうにでもなる。ハジメの頭の中には脱出後にこの地下室を封印する算段が組みあがっていた。


「でもはじめー。かえるってどうやってかえるんだよー?」

「ん? 来たところから帰るのさ。ほら、あそこ」


 開かれた扉――正確にはハジメが魔法で強引に切断した壁なのだが――がそこにある。

 きょとんとして、子供たちはハジメが指した先の、開かれた鉄扉を見やる。溶接された


「あっ!」

「あーっ!」

「アイてるよ!」


 子供たちがにわかに騒ぎ出した。


「ドアが開いているんだ。確かドアが開いたら外に出てもいい。そんなルールあったよね?」


 ゲームで学んだ知識をフル活用だ。秦飼の手帳にはそういうふうにルールが書いてあった。現物を見せてもらったのだからこれは確実だ。


 あの手帳には、子供たちを育てる上でのマニュアルが書き込まれていたのだ。どのように子供接するか、外に出たがる子供をどのようにいって説得するか。いかなる説法が最もストレスを軽減して納得させられるか。運用方法によっては子育ての指南書になりそうだと、今その内容を思い返すとそう思ったりもするのである。


「おうちに帰るんじゃなくて、お外の空を見るの、きっと気持ちいいよ」

「そらー?」

「そらって?」

「えーソラはソラだよぉ」


 子供達の数人がこてんと首をかしげる。

 空がいかに良いものか、語ってしまおうか? 雄大さ。その高さ。吹き抜ける風の心地よさ。曇天にも雪にも雨にも良さがある。温度だってそうだ。夏の暑さに入道雲。冬の寒さと耳が。これらを語るとたぶん詩的になって、お子様たちにはついていけない話になってしまうだろう。


 それにそもそも、なんだかんだもうずいぶん時間が経ってしまった。話し込んでいる時間はもうさすがにない。


 本来ならとっくの昔にここを出立している筈なのに、静夜が戻ってこない。心配ではあるが、戻ってこないおかげで、ハジメはこれ幸いと子供たちを懐柔するという回りくどい事をしているのだが。

 

「でも、そろそろ限界かな?」


 子供達に聞こえないよう、口の中で小さくつぶやく。

 あまりにも静夜の戻りが遅い。何かあったのではないかと不安になるのは仕方がない事だろう。静夜は基本戦闘で輝くタイプではないのだ。多少危険に強いと言えども、戻ってこなければ、その時間の指数関数分その身を心配してしまう。

 内心少し焦れ始めた彼女の内心を知ってか、彼女のズボンの裾を握りしめていた男の子が、くいくいと引き、ハジメの気を引く。


「ねー。はじめー。ティアちゃんがいない」

「あれ? まだ隠れている子いるのかい?」

「いないの」

「どこいっちゃったんだろ?」

「皆の中で、ティアちゃんと一緒にいた子は誰だい?」

「ぼく」

「あたし!」

「一緒にいないの?」

「あれ?」

「いなーい」


 などと会話しながら、じつはその見当たらない一人が静夜が追った子だとは気付いている。

 静夜が戻ってこない事も含めて心配ではあるが――いや、この事実を利用して話をつなげてしまおう。


「ひょっとして……?」


 ハジメは思いついたように振り返る。開かれた扉に顔を向ければさすがに子供達も結論に導かれる。


「ティアちゃんの顔は、みんなは分かるかな?」


 ハジメが何気なくを装い聞いて子供たちは顔を見合わせる。

 知っているなら、今から探しに行くから、みんな一緒に来て?


「――ティアちゃん、心配だね?」


 子供を唆すのは心が痛むが、助けないのは心が死ぬと言い訳をしつつ、ハジメは口から出まかせを言い続ける。

 静夜などは無理やり連れて行こうという程だから、いざとなったらそうするしかないし、するだろう。ただ、気が進まないだけで。


 気が進まないが、それでもハジメは、急場できるマシな手段をとっているつもりだ。


 その場しのぎでいい。とにかく外に連れ出して、しかるべき行政機関に預ける。その後の事は言い方は悪いが知った事ではない。

 犬や猫じゃないのだ。連れ帰った責任を取るなんてハジメが考える事ではない。未熟で未成年なハジメが下手なことをするより、異世界人を受け入れ続ける懐の大きな大人たちに任せるのが最適解だと信じている。


 静夜に頼るのはもうこの際仕方ないと思うし、アルバイト先の所長も、孤児や迷い児を受け入れる施設を知っていると言っていた。たとえ当てがはずれても最悪警察所の留置所にでもこっそり入れてしまえばいいとすら思っていた。

 善良な子供たちが一斉に留置所に現れる。さすがに大騒ぎになるだろう。そして無視も出来ないはずだ。割とありな考えな気もするが、だとしても留置所ポイッ作戦は実行する前に静夜に相談位した方がいいかもしれない。たぶん、止められるし怒られるだろうけど。


「……ふふっ」

「あーハジメちゃん楽しそー!」

「ナニナニィ?」

「なにー?」

「ごめんごめん。君達の事を考えてたらついね。大丈夫。きっとこれからは君達も楽しくなるさ。ティアちゃんもね。さ、行こうよ」


 ハジメの計画は大雑把だ。しかも責任を取るつもりはない。しかし子供達の未来を真剣に考えているのは本当なのだ。目の届く範囲に子供たちがいる時点で、ハジメはもう今回の作戦の成功を半ば確信している。この一週間で自分のスペックは確認した。

 結果、集中したハジメは至近距離からの発砲ですら躱せるし、耳をすませば離れていても鼓動を聞き取れる事は解かった。つまり、不意打ちに対処したうえで、視認してから敵を迎撃できるのだ。ハジメに守られた子供達に今現在の危険は何もない。


 あとは、秦飼が持つ戦闘能力や、特殊能力、魔法――はどうでもいいが、そういうものの関係がどのように作用するかだ。こればかりは絶対の確信を持たせてくれない内容だが、よほどの想定外がない限りは対処できるだろうと考えていた。


「ティアちゃんってどんな子?」

「えっとね。あのね――」

 

 ぱしゃん。


 ハジメの周りにいた、総勢十一名の子供達が唐突に、その肉体を失い、液状と化した。


「……え?」


 ミルククラウンのように一瞬の柱となり、ハジメの目の前で地面のシミとなった。騒ぎ声も、楽しそうな笑顔も全部がびしゃりとつぶれた。

 その後の部屋には、取り残されたハジメ。ただ独り。

 


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