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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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死ぬよりマシなゾンビズム 6

「ちなみに俺が意地でも断ったらどうなんでぇ?」

「発表は先延ばしだな。事実を知る人物にはしばらく不自由な思いをしてもらう事になる」


 今まさに不自由になる候補に向かってズームォがニコニコという。


「俺を監禁している間にもダンジョン界隈の連中は勝手に気付くだろうぜ。あいつらは案外鼻が利く」

「まぁ仕方がないな。噂が広がる数日の間に、ダンジョンを守る邪魔者には残念な結果になってもらう事になるだろう」


 見ず知らずの誰かを、まるで人質にしているかのような発言。そして、静夜にはこれが実際に効果があるのだから厄介だ。


「んな情報に情報をコントロールしたきゃこの国でやるなよ……。ダンジョン作りなんてもっとクソみてぇな所で好きなようなにできる所があるだろ」


 うんざりと、さも興味がなさそうなさそうに静夜はズームォを煽る文言を選んでぼやき声をだす。

 するとズームォは笑みを深めるのだ。


「そもそも本当に発表時期を調整したいだけだ。既にダンジョン省からの調査は済んでいるし、ギルドにも協会にも内部調査の許可をだしている。一般公開も間近という訳だ。きっと沢山の冒険者と探索者が潜ってくれる事になるだろう。タイミングこそ計りたいが、いざとなれば斬りたくないカードも斬るだけ。そしてわざわざこの国を選んだのにももちろん意味がある」


 静夜の思考など、ズームォはお見通しのようで、一つ言えば三つ四つと話は進む。


「本当にいい国だ。日本。選挙に協力にして寄付をするとだいたい許してくれる。あとはもう少し茶が美味しければなお良いが、それは我儘だ」

「こっちから言わせてもらえりゃ、まさか取り上げないなんて嘘だろぃってなもんだけどな」

「世界中を候補にあげたが、文明と鼻薬の兼ね合いは断トツでこの国だったよ」


 そうは言っても何もかもがザルな訳がない。どれほど根回しをして、どれだけの金をバラまいたのか、おそらく静夜の頭では想像も及ばないようなやり取りをして今に至るのだろう。

 とりあえず、それでも何か言ってやらない事には気圧される一方だ。


「戦争と飯に関してはこの国もうるせぇって覚えときな。あと緑茶はうめぇだろうが」


 たとえ面白みもない、判り切った事だとしても。


「肝に銘じておこう。あ、それでだね。ダンジョンになったのはおそらく地下に広がる空間の方――あの地下百階を貫く大穴なんだよ。上の方は余波をうけているだけで、いわゆるセーフエリアとなっているというのがワタシの見解だね。何が言いたいかというと、つまりだ、今後あの辺りの土地は高騰するよ。今回の話を断ると、二度と東京近辺の土地には手が届かないんじゃないかな? 本当に他意はなく、シンプルに金銭的な意味でね」


 嬉しそうに。誇らしそうに。無邪気な子供のように。


 おそらく本当に他意はなく、高くなるから今がチャンスだと説得したいのだろう。だが、この言葉を言っているのは八龍建設の黄子墨なのだ。ちょっと憂慮するだけで周囲が勝手に気を利かせて問題が解決してしまうような、暴力的な忖度の塊がそんな事を言えば、脅しだと受け手は思うだろう。ほら、後ろのとんでもなく美人な秘書が呆れた目をしている。


「……化け物だったか? 追っ払えとかそういう話かい?」

「興味を持っていただけたようで何よりだな」


 ズームォがニコニコしながら、右手を掲げる。すると後ろに立っていた美女の秘書が書類を手渡す。


「実はね。九龍大迷宮がダンジョン化したのは今から半年前の事なんだよ」


 唐突に始まる本筋とは少しずれた話。これがどう依頼と関わるか解らないので静夜は話しを聞く事しする。


「この国に来てから早二十年。若造がダンジョン建設のために本国から持ち込んだ資金はすぐに溶けてしまった。だからね、幾つもの設計をしてきたんだ」


それはそうだろう。兆を超えるであろう建設費用である。どこに融資を持ち掛けるにしてもそう簡単な話ではない。借りられるとしても、それは、返済能力があるという証明が出来なければならない。つまり、資金調達の為には仕事をするしかないのである。


「今回お話を持ってきた、その写真の『六反園ビル』も、ワタシが設計し、ワタシの会社が施工したものだよ。魔術的な要素で外壁を固め、呪術的要素で住民の健康を保つ。外観は予算の関係でシンプルになってしまったが、機能面でいえば今の八龍建設が作ったものと比べても、型式こそ劣るがそれでも遜色ないものと自負がある」

「へぇ。そりゃ随分立派なもんじゃねぇか」


 媚びを売る訳でもなく、素直にすごいと思う。二十年程前の話だと仮定すれば、その当時から技術は確立されていた事になる。


「凄いだろ? でもね、今と違って、昔はなりふり構わずに作ったんだ。実験もかねてね」

「おっと?」


 話が唐突にきな臭さを帯び始めた。

 実験とは、これはどういう意味であるのか。そこには一般論と違法的概念では超える事の出来ないへだたりが存在している事は間違いない。


「ワタシがかつて実験を兼ねて格安で引き受けた仕事。そのどれもがこの度九龍大迷宮がダンジョン化すると同時にダンジョン化を果たした。因果関係は不明だが、九龍大迷宮のダンジョン化がトリガーとなり、連鎖するようにダンジョン化したと考えるのが普通だな」


 ダンジョンを作ろうとして作られたという話は見た事も聞いた事もない。一つの建築物がダンジョン化したのがきっかけで、他の建物までもダンジョン化するというのが普通かも、静夜には解らなかった。八龍建設に訪れる前にそれなりには調べてきたが、そもそも、人の手による建築物がダンジョンになったという例すら、日本では三つ、世界規模で見ても百に満たない筈だ。そしてそのどれもが築年数百年を超える、いわゆる歴史的建造物ばかりであり、築年数が五十年未満の物件がダンジョンになった例は、ただの一度も報告されていない。


「さて、ここまでくれば何をお話したいかはおおよそ予想がついていると思うが、本題だ。いままで作ってきた建築物の内、確認されているだけでダンジョン化した物件が十棟ある。この内現在僕達が権利を買い取ったものが九つ。つまりこの世に一つだけ。ワタシ達の管理下にない、ワタシ達に纏わるダンジョンがある事になってしまうんだよ」


 なるほど。と静夜は内心で納得する。自分たちに関わるダンジョンを野放しにしているというのは、八龍建設的に見ても非常に外聞が悪い。何とかしたいがなかなかに難しい、そこで依頼をすれば受けてくれそうな静夜に白羽の矢が立ったというわけである。


「この最後の一つ。白紙社管理物件となった『六反園ビルダンジョン』の無効化、あるいは無力化をお願いしたい」


 有無を言わさぬ迫力で、世界で一番物騒な土建屋の王が静夜に所望した。


「まぁ、もっとも? 化け物は頑張ればこっちで片付ける事が出来るとは思うんだがね。だが本当の厄介者は別にいる」

「まずお前さんのとこでどうにかできる化け物を俺ァ知らねぇよ」

「ダンジョンのモンスターだよ。だがそこはいいんだ。問題は白紙社が最近になって重用している奇妙な男なんだよ」


 話しの流れからすると、化け物の方は比喩ではなくて、本当に化け物であるらしい。そっちの方がよほど静夜には問題に思えてならないのだが目の前の男はどうでもいいと言って言及するつもりはなさそうだ。


 ズームォは受け取った書類を二枚ほどめくり、そして机の上に置く。


「身長はおよそ百九十センチから二メートルの大男。巌の様な体格でありながら非常に機敏に動く。柔道や空手の有段者の様な身のこなしをし、なおかつ別件調査でトラブルとなったワタシの部下三人を無傷で気絶させた。遠方で監視していた四人目に気が付きながらも、男の方からは積極的な交戦行動の様子はなし」

「三人相手に無傷って時点でなぁ。そりゃわざわざ四人目を追い回したら弱いもん虐めってやつだ」

「弱い者いじめ。ふふ、そうだなワタシもそう思うよ」


 含みのある言い方からすると、どうやらズームォの手下は相当な手練れであったのだろうが、それは静夜にとっても百も承知の事である。


「白紙社は、ワタシ達が六反園ビルからダンジョンコアを回収、破壊をしようとしている事に気が付いている筈だ。なので、ワタシ等に破壊される前に回収しようとする動きを見せている。十中八九大男が派遣されるだろう」

「そのでっけぇのが、もしかしたらしゃしゃり出てくるかもしれねぇのぁ分かったよ。けど殴り合いで解決できないならわざわざやりあう必要ねぇ筈だぜ?」

「ええ、気配を察知する力が理不尽だったり? 嘘を見抜くのに妙に長けてたり? 不可解な程に魔法に対する耐性が高かったり? そんな男を運よくやり過ごす事はまぁきっと出来る事だろう。だが対峙する可能性を捨てる事はできない」


「随分煮え湯を飲まされて恨んでいるこたァ解ったよ」

「いや、向こうも仕事だ。ワタシの部下たちは誰一人死ぬどころか後遺症のある怪我すらしていない。敬意すら感じていますよ。だが、それでも彼は酷く邪魔だ」


 そうって、ズームォは笑み以外の表情を静夜に垣間見せた。


「彼を殺さずに対抗できそうな人間で、なおかつあのダンジョンを攻略できそうな人間はね。そう多くはない。だが幸運にも今、ワタシの目の前には、ワンダフルワールに愛された不死身の男がいる。彼にまんまと倒される事もなく、そしてダンジョンを破壊してくれる可能性が十分にある男だ」

「その不幸な男ァ今この話を断ったら東京湾に沈められるんじゃねぇかって戦々恐々としているぜ」

「そんな酷い事はしないさ。ねぇ?」


 ズームォは振り返ってクールビューティの秘書に同意を求める。彼女が肯定するが、忖度されそうでとてもではないが安心できないのだが。


「それこそ大陸の伝手で何とかすりゃいいだろ? 梁山泊だって八龍建設の頼みとあったら無下にゃしねぇだろうに」

「さっきも言ったが、ワタシは本当に彼に敬意を抱いている。死んでほしいとは思っていないんだよ。殺すだけなら何とでもなるし、いざとなれば殺すだろうが、今はまだ違う。そして白紙社が困る分には一向に困らないがが、それはそれだ」

「……殺しの話じゃなさそうよかったよ」

「弓代君はワタシ達を本当に何だと思っているんだ?」


 ズームォは愉快そうに笑った。

 自分たちが人殺しを何とも思っていない集団だとと思われている事を笑って許せる位には、そういう集団なのだろうと静夜は思う訳だが、これ以上ごねても仕方がないと内心思い始めている。脅しに屈するという意味ではなく、ズームォが静夜を選んだ理由の一つが、その大男であると理解したからには、どうやら面白い話になりそうだと予感しているからだった。


「おっかねぇ土建屋だよ。そんでそのやべぇ男ってのをどうにかこうにかした後だ。俺がダンジョンになっちまったビルに入るまでは良い。けど入って探検して、何をしたらお前さんの満足いく結果になるってんだい?」

「先程も言ったが、ダンジョンコアの破壊か、ダンジョンコアの回収を求めているよ」

「ダンジョンコアってのの見た目は?」


「ワタシが作った当初、そうなって欲しいと作った時は一枚の契約書の様式をしてた。しかしダンジョンとなった今それがどのような進化を果たしたかは想像しかできないな。そのままの形でとどまっているかもしれない。魔導書の様におどろおどろしくなってくれているなら予想通りと言った所か。水晶状なったのならダンジョンコアとは宝石の形状をしているとい想定の内。この場合手帳に記した呪文の数々がどうなっているのかは解らないが定型であるからには驚くべきことではない。あるいは、まったく予想だにしていない形状なのかもしれないが……」

「つまり、形は不明か」

「そうなるな。だが、目印はある。呪文が刻まれているかどうかだ。こればかりは確信がある事だ。ダンジョンコアの効果を発揮するようにと呪文を描いたんだから、その呪文が消えてしまってはダンジョンコアにはなりえない」


「耳なし芳一みたいに文字だらけで、動物の形状で動いていてもおかしかねぇと」

「その発想はしなかったが、ああ。ありえるね。体全身に刺青を彫ったスキンヘッドの可能性も捨てられない。この可能性を考慮に入れて、ただの反社会的勢力のお兄さんの頭をかち割ったりしないでくれよ? 彼等だって生きているんだから」


 そう答えられて、静夜はげんなりした。出来れば人間とは区別ができる見た目をしているといいのだが。

 と、そんな事を思っている内にズームォが脇に控えている美しい顔の秘書に声をかける。


「ルォシェン」

「こちらです」


 秘書が一冊のファイルを手渡す。振り向きもせずに受け取ったズームォはテーブルにファイルを広げる。


「企業秘密なので渡す事は出来ないが、こちらが呪文だよ。そして魔法陣で特徴的なのはここ。ここが一番解りやすい。目玉に見える大穴を表した形と、握手をイメージした象形の縁。これはおそらく殆ど変わっていない」


 開かれたファイルの見開きには、二枚の紙があった。右は左の一部の拡大図になっていて、ズームォはそこを指さしている。

 左の書面には文字と幾何学模様が記されている。言語学者なら覚えられるのかもしれないが、静夜にはどこの言語が元になっているかもわからない。文字である事は想像が付くがどのような意味であるかは分からず、ならば言われた通りに、右の紙に描かれている、幾何学模様の円陣の目玉の様な形を頭に叩き込んだ方がいい。


「こりゃ、深淵を覗き込んだらなんたらって奴かい?」

「その通り。それくらいの覚え方で充分だ。この模様が描かれている物体が、おそらくはビルの最上階、社長室のどこかに仕舞われている筈だろう。弓代君にお願いするのはこれだ」

「ちなみに回収した場合、処分はどうしたらいいんだい?」

「回収した場合……? ああ、そうだな。回収の可能性。いいな。それはいい」

「破壊がご希望だったようだな」


「それが一番可能性としてあると思っていただけの話だな。回収した場合は弓代君が持っていても大丈夫だ。それ単品でダンジョンが成り立つ様な事はあり得ないし、ビルから出たら価値は失われると思われる。記念品にしても結構。ワタシに売ってくれるなら、そうだな、研究材料としてそれなりの金額で買取させて貰おう」


 まるで、回収なんてできる筈がなく、破壊するのが大前提の様な言い方であるが、あえてそこは突っ込んで聞かない事にしておく。もしかしたら回収こそが本命かもしれないのを、あえて気のない素振りをしているかもしれない。なんて思い始めたら限がない。 


「ちなみに、ダンジョンコアの取り扱いは任せるが、ワタシ達が作った人工物である事。弊社監理の物件にダンジョンコアが設置されている事を口外する事。そしてこのダンジョンコアを他社に譲渡する事は推奨しないな。特に最後は非常に――」

「俺ァ契約書にゃ全部目を通すよ。読める大きさでしっかり書きゃいいさ」

「ではその様にして貰おう」


 ズームォは実に満足そうに頷いた。おそらく、静夜と八龍建設の契約がもう確定したのだと理解したのだろう。そう判断したズームォを静夜も理解する。ここからごねたり、話の腰を折ったりするのは、洒落にならないだろう。


「それでは思いの外話が解って、ワタシに譲歩してくれた弓代君に、お返しとして二つ程、耳よりな話を提供しようと思うんだが?」 


 元よりここに来た時点で逃げ道はないに等しかった。肚を括っただけだがそれはそれ。文句の一つも言いたいが、言った所で何にもならない。

 暴れた所で、ズームォの後ろの美人秘書が危険なのは間違いない。だって目が怖いのだ。


「まずは一つ目。これはダンジョン攻略をする事には関係ないんだが、本件にとっては無関係ではないというべきだろう」

「前置きはいいって」

「そうかい? それじゃ主題だ。街は今、少し不気味な状況になっているようだな」

「不気味ってなぁ?」


 目の前の男こそ不気味なのだが、その男が言うからには不気味なのだろうとも思う。

 そして静かに『ははっ』と笑うズームォは不気味だった。


「六反園ビルがあるこの街、ここ数年の自殺者数がゼロという報告が上がってい居る。事故死や病死は沢山あり、何なら殺人事件すらも、一件ではあるが公けになっている。が、自殺者だけはゼロなんだよ。実に素晴らしい話しかもしれないが、少し不気味だと思わないか? 日本において人口十万人当たり十六人が自殺しているというのがここ数年の計算だ。かの都市の人口はざっと四十万――おおざっぱに言って年間六十人は自殺者が出る事になる。出ないに越したことはあないんだが、しかし自殺者ゼロ名は、果たして市のたゆまぬ努力だけでどうにかなる物かな? ワタシはそう思っていない」


 部屋に詰まっている空気が重くなった気がした。静夜になじみ深い、呪われたマジックアイテムの臭いに似た、気分の悪くなる重さだ。


「――そういう消去法と推測の兼ね合いで、ワタシは推測し、結論を出し、確認までしたよ」


 不気味だ不気味だと言われると、なるほど不気味な話である。

 人が自分から死なない街。それは理想郷。ではあるが、それはまだ人類が届かぬ理想郷。存在しない筈の物があるというのなら、ズームォの言う通り何かの不気味な何かを感じずにはいられない。


「白紙社が六反園ビルを手に入れたのが五年前。自殺者が居なくなったのも五年前から。うん、因果がある。別に、それだけなら白紙社の仕事ですので僕も気にしないのだが、ここにきてそのビルがダンジョンになった。こうなると話が変わってくるんだよ」


 ただでさえ厄が詰まった場所だったのに、それが変質してダンジョンになってしまった。なるほど、これは八龍建設も見過ごせない。出来れば五年前、把握していた時点で手を打ってほしい物だが、それに関わるうま味も責任もないのに手を出す理由はどこにもない。


「ダンジョンになったからには回収しないと企業秘密が漏れてしまう。しかも単なるダンジョンならまだしも、あそこは死者になる筈の人間を無理矢理生かしている疑いが浮上してきたんだ。詳しい話は後で文書にして渡そうと考えているが、極めて不誠実な形であると言っておこうか。そうなるとそんなダンジョンを作ったワタシ達の外聞はあまりにもよろしくない」

「不誠実ねぇ。まぁ、人が死なねぇで済むなら良いこった」

「きっと弓代君はこう思うだろうな。こんな事を知ったら、八龍建設に脅されなくたって乗り込んでぶっ壊すしかないだろう。ってね」


 事実、書面に記された内容に目を通した静夜は似たり寄ったりの感想を抱く訳だが、この時点の静夜は不機嫌そうに聞き流すだけだ。


「そしてもう一つは、白紙社が雇った男について」

「滅法強いって言ってたな」

「その強さが、おかしいんだよ」


 面白い事を打ち明ける子供は、たぶんこんな顔をする。もっとも、子供は勿体ぶったりはしないだろうが。


「実は弓代君に白羽の矢が立ったのは、奇妙な輩の奇妙な点が、あまりにも君向きだったから。という事もある」

「……へぇ?」


 それは聞きたいと思っていたところでもある。ダンジョンの化け物すら倒せると思われるズームォの部下たちを退ける奇妙な輩とは何者か。そしておそらく、その部下たちよりもずっと弱い静夜がこのような状況に陥っている理由は何なのか。


「うちの腕っこき達は一度彼と交戦し、追い返されたわけだが――」


 にこり。


 自分の部下が負けた事すら面白い発見だったと言わんばかりに。


「気絶させた方法は首筋を、こう、トンって奴だ」

「……報告書まちがえちゃいやしねぇかい? 映画かなんかの脚本だろそりゃ」


 ぼやき気味に返すと、ルォシェンと呼ばれた秘書が静夜の前に数枚の紙を差し出す。その置かれた書類に目を落として、沈黙せざるを得なくなる。

 日付、人数、そして『頸椎部への軽度打撃による気絶』『腹部への軽度打撃による気絶』『により気絶』『気絶』『気絶』と並ぶ結果。


「ワタシも間違えかと思ったので然るべき機関に依頼し、何度か彼にちょっかいを掛けてみたんだ。結果は全て同じ、創作物よろしく首筋、あるいは腹部への一撃による昏倒により撃退されてしまったよ」


 俄には信じがたいが、かと言って疑う理由もない。すでに仕事を受ける方向で話は進んでいるのだ。餌をチラつかせるには遅いし、話しを盛るにしても見せられた資料には整合性がある。 


「人間業だと思うかい?」

「なるほど、こりゃ俺向きだ」


 こうして、弓代静夜は達磨舞う街へとやってきた

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