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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 42

ここからしばらく猟奇回となります。

そこまでグロじゃないとか思っていたけど、読み返したらモザイクが必要な絵面とストーリーでした。

51まで飛ばしてもストーリーそこまで困らないです。(チートデータガールの50まで猟奇回)


 ハジメと知り合って一週間が過ぎた。静夜の命を狙う頭のおかしい連中は一旦退(しりぞ)いたようで、あれから静夜の命が狙われる事はなかった。ただ、それは静夜の周りだけでの話で、ニュースやSNSではちらほらと不穏な情報が流れていた。転移者、転生者が、東京を中心に次から次へと殺されている。

 大々的に殺しが起きているものだから、あまり殺伐とした世界に関わりのないような、線引きされた向こうにいる一般人までこの情報に触れていた。


 いっそ、静夜の様に情報を聞いても興味のない人間こそが今の状況に詳しくないまである。


 報道でもたらされたニュースも適当に聞き流して静夜は部屋を出る。これからハジメに会う予定もあるし、面倒な話はあまり増やしたくない。


『静夜君に相談があるんだけど、時間作ってもらえないかな。かなり手遅れっぽいけど、でもだからってこのままは見過ごせないと思うんだ』


 とても深刻そうにハジメが電話をしてきて、直接会って、出来ればそのまま問題解決もしたいと言い出した。

 つい最近電話があった時のようにバイトで問題に直面したのかと思ったが、どうもそんな様子もなく、彼女は深刻そうに、とある殺人鬼を何とかしたいという話を切り出した。

 

 思い返すまでもなく、彼女は初めから地蔵が沢山ある通りの殺人鬼の事を解決する事に積極的だった。以前も懸念したが先走って、まだ世界の勝手が解らないにも関わらず、一人で突飛な行動を起こすかもしれないと思っていた。

 それも今ではそんな暴走はしなさそうだと解かってきていたが、そうなると逆に、彼女はじっと我慢して相談もせずに保留が続くのではないかと不安になってしまっていた訳だが。


『詳しい話はあってするよ。でもね、今まで続いてきて、これからも起こり続ける悲劇を止めたいんだ』


 静夜は二つ返事で要請を受け入れた。

 静夜ももうハジメが言う殺人鬼に心当たりが出来ていたし、解決するべきものだという認識もしていた。なにせシキが他人のために何かをしてあげたいと思って静夜を頼ったのだから気合も入る。

 そしてハジメが殺人鬼に関わろうというのだ。ほっとくとなにが起こるか分かった物ではない。

 警察は論拠があいまいな証言では動かないし、ならば静夜が監督して証拠につながるものを見つけるのは道理である。

 そんな考えの元、静夜はハジメのお願いに積極的だった。

 するとハジメは。


『えっ、本当に解ってる?』


 などと聞いてきた。失礼な奴である。

 会って直接説明するという結論にいたり、説明の後にそのまま現場に向かうという話になった。

 という訳で静夜は今、待ち合わせのカフェへと向かって歩いていた。


 ……考えてみれば随分時間に余裕をもって出て来てしまったと、カフェが近づくにつれて思い始める。


 人から頼られる事は常であるが、いつだって悲嘆に喘いだ不幸な人物が、天から降りた蜘蛛の糸に縋るかのように頼ってきていた。ハジメの様にサラサラと頼ってくるのは新鮮だ。しかも荒事ともなれば、逆に静夜がハジメに頼る事も今後はあるだろう。それも含めれば、これはある種のギブアンドテイクの先駆けとなる。

 頼られるばかりではないというのは悪くない。だから実に気楽で、足取りも軽い。厭々ではなく出かけられるのは実にいい物だ。


 久しぶりと言ったら期間は短いが、彼女と会うのは数日ぶりである。この世界に来たばかりの数日は、彼女にとって濃密な物だろう。その数日間、彼女の経験した新しい世界がどんなものだったか、きっと彼女の口から語られるだろう。それを聞くのは楽しみなくらいである。

 それはもちろん泣き言だってあるだろうが、それでもそこを含めて、話を聞いてやりたいともう程度には、甘咲ハジメの人間性を静夜は好ましく思っていた。


 自動販売機で冷たいコーヒーを購入し、飲んで口を湿らせ、眠い頭と、鈍い体にカフェインを行きわたらせる。朝のコーヒーは欠かさない。夜のコーヒーも出来れば忘れない。今日も無事ルーティーンを済ませる事が出来たと小さな満足を腹に納め、空き缶をゴミ箱へ。


 ハジメと知り合ってから一週間経つという事は、同時に静夜がこの土地に越してきてから一週間が経ったという事でもある。

 そろそろこの辺りから駅までの道のりが確定してきていて、どこに気に入った缶コーヒーがあるか、コンビニがあるかなど、ルートの確立が出来始めていた。ただ、ハジメのとの待ち合わせが最寄りの駅の反対側であるから、道は逸れるし途端に知らない景色になるのだが。 


 ところであまりにも害を気にしな過ぎて忘れがちだが、静夜は呪われている。

 呪われているというか、異世界の精神体達が悪霊に変質してしまったモノに憑りつかれているので、呪いじみた不幸に遭遇する。


 一日一回は呪術的に命を狙われるし、青白い子供がたまに足を掴むし、洗面所には知らない女の髪が生える事があるのでパイプクリーナーが必需品だ。車の運転をすればブレーキは壊れるし、飲み物は異物混入が珍しくない頻度でおこるし、鬼のような頻度の着信には友達の名前はないし、夢枕には世界の創造者があらわれる。

 そして、知らない道を歩く事になれば、結構な確率で遭難する。

 一直線の道であっても、瞬きとともに眩暈を覚えて振り返れば見覚えのない道となる。


 ――……今まさに、このように。


「タイミングがわりぃな……ったく」


 スマホを見れば当然電波不通の圏外で、前後左右何処を見ても変化がない路地裏だ。そもそも路地裏に来た記憶がない。歩いて歩いて、高架を渡って俯いて、顔を上げた時には周囲に人はいなかった。これが神隠しの導入なのは経験上疑いない。


 果たして静夜の弱体化を願う精神体達の内の、どれが悪さをしたのか……。

 アクセサリーを一時的に外す事を検討に入れる。少しは付き合ってやってもいいが、余り度が過ぎるようだと仕置きを兼ねて封印に回し、時として処分するのだ。

 異世界の精神体を集め始めてずいぶん経つ。一つくらいは見せしめに封印しても十分な安全を確信できる静夜であった。

 

 ピアスは違う。ピアスについているは異世界の精神体はどれも強力すぎて手に入れた頃から殆ど変質していない。

 指輪かブレスレットのどれかなのだろうと想像しているが、現状どれかは把握できない。

 何はともあれ、このように静夜は何度も体験してきた神隠しに慣れていた。


 その内判明したら対応しよう。

 探るのは諦めてとりあえず歩く。

 移動は変化。変化を続ければその内、何かが起きるからだ。

 例えば静夜がより変な空間に迷い込んだり、その結果力尽きたり。


 慣れてしまったせいでこの状況に陥った事には驚かないし、焦りもない。

 この神隠しが原因で死ねばどうなるか。

 じつは静夜はこの空間から解放される。世界の修復力が静夜を閉じ込める空間の事を静夜の状態異常と判断し、強制的に幽閉空間が解体されるからである。


 時間の流れに関しても、神隠しでたまに聞く、十年後に飛ばされるなどと言う事も起きない。これも世界の修復力の関係とやらで静夜が存在しない世界を認めないとかなんとか。つまり神隠しに合っている間の時間は、静夜の体感以外は殆ど時間は進行しないという事だ。


 ぐるぐる歩き回る。焦りがないせいで疲労感が薄い。この調子だと自傷による衰弱からの気絶が安パイだろうか。本来やりたくない自傷パターンを選ばないといけないかもしれないと思う事が現在の憂鬱だった。それをしない場合は、人間が飲まず食わずで生きていられる限界とされる四十八時間ほど待つ必要がある。それだっていきなり死ぬ訳ではなく、行動不能になるまでのその間も衰弱する事だろう。脱出するまでに今後のやらなければいけない予定を忘れないかが気掛かりだ。


 予定自体は結構色々ある。

 ハジメとの本日の約束の事。つまりは殺人犯の発見の事。

 解決した後のハジメの身分の事。

 引っ越した後の、知り合いへの連絡。

 所在報告義務がある呪物の移動手続き。

 命を狙われているのだから多少の対策。


 この様に考えなければいけない事はあるのだが、極限状態に追い込まれてから帰還したとき、果たして静夜はこれらのタスクを覚えていられるだろうか? 


 前回神隠しの様な空間に閉じ込められた時は、呪物取り扱い許可証明書を取りに行くのを忘れた。

 後日、役所の職員がヤクザを相手にするような奇妙な低姿勢と曖昧な笑顔、そして距離を取りながら暴力に怯えるような態度で許可証を持っているかを聞いてくる姿を見て、静夜は随分気疲れした物だ。


 何が言いたいかと言えば、早く脱出しないと予定をど忘れする可能性が出るという話である。


 とはいえ出来る事は無暗に歩く事だけだ。

 動く事だけが迷子の解決方法である。幸いどこに向かって歩いても大体結果は同じである。だって静夜が疲れ果てる事が目的なのだから――と、延々と続くと思われた街並みに、ふとした違和感を覚える。


 無限に続く鉄パイプの配管。無機質に湿るアスファルト。コケティッシュな動く画像の看板も、すでに何度か同じのを見た。永遠に繰り返されるようにまた来た道を歩かされている。いつもは無数に飛び交う宅配ドローンが一台もないのがここが不気味の象徴だった。

 人がいない筈の迷い道で、すすり泣きの声がするのは、血の臭いがするのはどうした事か。これに関しては流石に無視できない。


 魔導も魔性も非実在魔生物も、いまいちぴんと来ない静夜が感じるからには、これは間違いなく本物の血の臭いだ。

 非常に不快な感情が眉毛の形に現れ、歩く静夜の速度は少し早まる。方角が解かるほどの血の臭い。神隠しの先で感じる血の気配など、いつだって碌な物ではないのである。


 ――じとっ。


 こんなに無機物だらけの街に、湿気が酷くのさばっている。

 誰もいない空間で、恐怖心と、確認せずにはいられないある種の好奇心を煽る血の臭いと、奇妙に甘い、腐った後の果実のような匂い。これが罠かはわからないが、少なくとも誘われている物だと静夜は受け取った。本来なら行こうと思わない方向に、わざわざ吐き気を催す血の香りを漂わさせるのだ。これで実は隠蔽したいと思っていたなどと言われたら噴飯物である。長いこと呪物とかかわってきた人生、こんな時は大体気になる物の向こうには何かがある。


 良い物であった試しなどないけれど。


 強い生臭さを辿り、静夜は進む。どこに行っても何も変わらないなら、それはどこに行っても良いと同義語である。いっその事、着いた先に静夜を殺す様な罠が仕掛けられている方が時間短縮になってありがたいとすら思っていた。


 じとじと……。


『いやっ……なんっで!? なっ』

『ごご、ごめ、ごめんな……許し……い!』

『あはは。美味しい。もっと。もっと。ああ、美味しい。あふっ。ああ美味しい』

『ぐすっ……』

『あたし、美味しい匂いがするの。もっと、美味しい匂い、出来るかな?』

『――ちゃん? 今っ、いっ今助けっ……』


 随分はっきり聞こえた声は悲壮感が溢れてて、それでいて正直聞くに堪えない。


 血の臭いが濃くなれば、糖度の高い匂いも濃くなる。それと同時に不気味な雰囲気を感じ始める。気配とか魔力ではなく、もっと人間的な経験則だ。

 茹だる暑さと湿気と薄暗さが混じれば同じものを感じるかもしれない。あと、主成分は血の臭いだ。


「はぁ……気が滅入るったらねぇな」


 それにしても、静夜が身に着けている呪物にはこんな効果はない筈だ。閉じ込められるのも、殺されるのも慣れているが、他人が被害にあっている場面に引き込まれるような物は知らない。

 こんなものは持っていたら何を置いても真っ先に解呪を検討する。静夜に猟奇的(ゴア)場面を見せる為だけに第三者が巻き込まれて傷つく。それは静夜の望むところにはない。


 呪いがこじれて静夜以外の誰かが巻き添えを食う。それはあり得る話しだし、何なら静夜は切り札としていくつかそう言った危険な物を所持している。だが、そんな危険物はどれも取り扱い方法を心得ている。ちょっとした天気雨位のノリで遭遇していい物ではない。


 もちろん、静夜が感じて予感している物はこの先存在しないかもしれない。ただの幻覚であるかもしれない。で、あるなら静夜も気楽だし、静夜に幻覚を見せるようなものには心当たりがあった。

 が、悲しいかな経験則はこれを否定している。幻ではなく、閉じ込め系統の呪いの仕業だと。五感で感じる空気感、もしかしたら魔力や殺気などが解かる人間と同じように感じているのかもしれない。歩いた道の整合性の無さ。ありていに言えば同じ場所を無限にループして歩かされている事。幻であるならばもっと整合性が取れている筈だ。夢幻と気付いた時点で幻覚系の状態異常は半減したような物だから、高度な呪い程、露骨な要素は減っていく。さっきのは自分だけが見えた幻なのでは、心の瑕疵を気にする方向で対象を蝕むのだ。


 なのでこの状況を作り出している物は上記のように閉じ込め系、神隠し系の何かであるという結論になる。

 とりもなおさず、静夜が所持している呪いのアイテムが原因ではないという結論も同時にでる。


 それにしても、趣味が悪い。

 罠にしても、誰かが巻き込まれたにしても、誰かに巻き込まれたにしても。


 か弱い者の許しを請う懇願、絶望、啜り泣き、そして押し殺した声。思わず助けに行きたくなる。助けに行きたくなる効果があるのかもしれない。そして助けに行った先で被害にあうのだろう。


 聞こえた声の成分を脳内で整理しながら、気持ち早足で歩く。


 想像の中では誰かが母親に助けを求めている。これが本当に助けを求めているのかはわからない。声の悲壮感は本物に感じるが。おびき寄せるのだとしたら静夜だが、既にこの延々と繰り返す街並みに囚われた静夜をいまさら更におびき寄せる理由がわからないというのも、考察の理由だった。


 もっとも、可及的速やかに静夜を始末したい呪い側の思惑でおびき寄せようとしてる可能性は、全く持って排除できない訳であるが。

 ただ、だとしても静夜の歩は鈍らない。前述の様に、静夜は自分を殺す様な罠を忌避していない。時短されるなら勿怪の幸いだ。


 歩いて歩いて、やがて辿り着くのは青いネオンサインの看板が掲げられたのバーの様な店だった。

 どこか、既視感のある外観の、レンガ造りのビルである。

 とはいえ、今までの道程も特徴がなさ過ぎて、歩き続けるとどんどん既視感が増えていく。どこで見たかとかは、今は思考の外に置いておこう。


 そのバーのような店のドアは少し開いていた。隙間からは血の臭いが濃く漏れ出していて、自然と息を潜めてしまう。息が静まると啜り泣きの声が際立つ。不快な雫の滴り音が耳に障る。

 覗き込むと、湿り気の強い微風が顔に絡む。身体を押すような熱された空気を感じる。汗ばんだ額に髪が張り付くのを鬱陶しそうに手の甲でずらす。


 顔だけを中に入れて――いや、ここまで来たらこそこそする理由はないだろう。床まで血に濡れているのを確認した静夜はドアを足で蹴破り、一気に中に入る。

 たとえ罠であろうと気分が悪く、その光景は許しがたい。九割九部幻だったとして、わずかな確率でも本物かもしれないと思ってしまうからには反吐が出る。こんな悪趣味な暴れまわって壊してしまおうと思ったのだが、中に入った途端に静夜はぴたりと止まる。


 店の中には何もなかったのだ。

 油じみた床。鉄の足の丸テーブル。カウンターテーブル。テーブルの上のまな板。包丁。しかし血はなく、被害者の姿もなかった。

 あると思っていたものがなかったという時も、人はこうして固まる。静夜は勢いあまって部屋の中に入り込んだがその勢いを持て余すように忙しなく左右を確認する。

 不快な気持ちはありつつも、すでにこれが罠であり、次に待っているのは攻撃であると確信があった。殺されてしまえばおそらく脱出となるのだろうが、それにしたってどう殺されるかを確かめるべきだと思っているし、ただで殺されてやるには不愉快に過ぎる。

 

「出て来い。胸糞わりぃモン見せやがって。使いもんにならなくしちまうぞ……?」


 低い唸り声の様に静夜は呟く。どこにいるかもわからないし、いるかどうかも解らない。下手をすると間抜けな独り言だ。だが呪いの一つくらいなら潰せる自信がある。なのでこれは脅しでもハッタリであると同時に、宣言である。


 今まで多くの異世界人が呪いに変質し、静夜を苛んできた。一つの世界の頂点に立つような精神体達、それすらも静夜に憑りつくには依り代が必要で、その依り代があってもその殆どは世界の修復力に負けて消えていった。

 有象無象の誰かが作った呪いなど静夜に憑りついたが最期、早晩この世から消えていく。

 なので例えば静夜が呪物を飲み込んだりでもすれば、静夜の宣言は現実のものとなるのだ。

 

「……出てこいっつってんだろ? 本当に全部ぶっ壊しちまうぞ?」


 何も起きない状態が長いと思い、それに苛立ち、感情を露に静夜は静かに強く凄むが反応はなし。


「ちっ……」


 どうやら呪いか幽霊かは、静夜の前に姿を見せる気はないらしい。

 舌打ちばかりばかりしてても仕方がないので、静夜は何か手掛かりを探すようにキッチンカウンターに向かう。


 大小の寸胴鍋には火がかけられている。沸騰しているのか微弱に振動しているように見えた。

 この部屋の蒸し暑さはあれが原因だろうか。

 蛇口からは水滴。

 シンクに滴る音が煩わしい。

 まな板と包丁。他に何があるかと歩み寄る。

 半開きの冷蔵庫。視線が向いた途端にグオンと鳴り始める。

 半開きの細長い暗闇の中から指見えた気がしたが、意識して改めて見れば何もない。


「……」


 キッチンカウンターの裏側を確認する様に回り込んで――。


「痛いよぉ……」


 小さな寸胴鍋の中から声がした。

 それを覗き込んで。


「あ……たすけ……」


 そうと言われて、静夜は一瞬だけ言葉に詰まったが、その後は表情も声音も取り繕って小さく声を出す。


「……おう、任せとけ」


 思わず安請け合いの言葉を言って、微笑みかけた直後の事。静夜は立ったまま眩む。

 貧血のような。脳に血が足りず、意識と思考を奪うような視界と思考の暗転を感じて……。

 足に力は入っている。が、一歩歩いたらバランスを崩して倒れるのではないかとは思って踏み出せない。

 そうして浮遊感すら伴う思考の魯鈍をやり過ごして、気が付けば静夜は往来に立っていた。

 思わず見回そうとするが、思考と体がちぐはぐで、静夜はよろめき脇を歩いていた通行人の体に体当たりをしてしまった。


「ちょっとぉ……」

「っと、わりぃ」

「あ……、大丈夫、です。私ったらよそ見しちゃってて」


 適当なやり取りでその場をやり過ごして、静夜は歩き出す。

 電飾やネオンだらけの屋根の下、地蔵がやたらと立ち並ぶその通り。

 なるほどなるほどと納得しながら静夜は歩く。


「……呪いじゃなかったかい……」


 それは死んだ子供達と目を合わせた事が引き起こした現象とでも解釈するべきか。

 ならば最後のあれは、きっと自分たちを見つけてくれる人へのSOSだ。

 そう思い至ると静夜の決意は固くなる。どうやら本当に解決しなければならい事の様だ。

 静夜はハジメとの約束の場所へと急いで歩くのだった。



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