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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 32


 爆発は確かにあった。

 人間の肉体が耐えられずに飛散するような悪意の炎だったが、ハジメが咄嗟に魔法を使った結果無傷である。しかし呼吸器系への、副流煙的なダメージが案外馬鹿にならなかった。ただの煙じゃなくて魔力とかそう言う物が混じった煙だったのかもしれない。煙の事を考慮に入れれば、受けるダメージを対消滅による無力化なとど難しい事を考えずに空気の層などを作るべきだったかと反省しつつ、ハジメはジャージ姿の青年を強く睨みつける。


「下の誰か、無関係な人が巻き込まれたらどうするつもりだったんだい?」


 スキンヘッドの男も半ば巻き込まれたようなものだが、まぁそこは別に。

 

「なんだよ……なんで無傷なんだよ。ズル……ズルだ! ズルだろぉっ!」

「んー。もう黙りなよ?」

「ひぃっ!」


 今度は本当の本気。殺気が出ない様にと思ったのだけれど、たぶん漏れ出ているだろう。命を狙われたのだから、なんだこの野郎って思いもあるし、この人物の火力を振るう躊躇のなさは間違いなく今までもこんなことをしてきたのだと知れる。良く解らない癇癪で爆弾を作り出して殺しにかかってくる一連の行動は実に手慣れた物である。いったいどれだけの人がこの意味不明な激情の犠牲になってきた事か。


 その推察もあいまってハジメは一気に不機嫌になっていた。

 結果、ハジメの不快感を一身に浴びてしまい、完全に怯えてしまうのだった。


 よろめきながら勝手に恐慌に陥り、そしてハジメから逃げように後退る。

 自ら作り出した空気の焼ける臭いが、ジャージ青年の皮膚を焙る。きな臭い物を掻き分けてハジメが距離を使づける。それが怯えを加速させて、ジャージ青年は逃げるように踵を返して走り出す。


 扉を開けようとノブを掴んだが、ハジメは許さない。逃げた後を追って室内で爆弾なんて作られたらたまったものではない。だから、屋上から飛び降りたスキンヘッドと違って、このジャージ青年はこの屋上にいてもらおうと思うのだ。


 加減が解らないから直接攻撃は避けるが、ドアノブの温度を高温にする事位ならきっと許される。ドアノブを掴もうとしたその直前に、ハジメのイメージする魔法は電子レンジのように金属を加熱する。一瞬で赤銅色になったドアノブを掴んだから、ジャージ青年は強烈な苦悶の声を上げる。

 表面に火が通った右掌を、一瞬信じられない物を見る様に確認したジャージの青年は今度は屋上を囲う鉄柵に向かって走り出す。それが彼の未来の改善へ寄与するとは言えないが、行動しないよりはマシであったのだろう。


「さっきのハゲさんみたいに飛び降りるつもりかい? 逃がす気もないけどさ」

 

 三匹がスキンヘッドの男に目をつけたのは把握している。絶対に殺すなとは願ったけれど、果たしてきちんと守ってくれるか。実は結構ドキドキして、内心冷や汗をかいている。あの子達、手加減の意味解っているかな?

 ともあれ、ハジメは詰め寄る。もう王手摘みを確信していた。


 の、だが。


 鉄柵を乗り越えようとして、高さに怯えて動きを止めたジャージ青年は、柵の下を覗き込んで歯ぎしりする。

 このタイミングで地上では事態の収束に至ったようだ。ホテル前のストリートで、パァンと銃声が響く。最後の一発が放たれたのか、シンッと静まった。


 憔悴した瞳でその決着を睥睨して、青年は手を伸ばす。魔法の力で作り出されるのは数多の爆弾。手榴弾や時限爆弾、導火線付きの爆弾。すべてがイメージで造られているから爆発の原理はなさそうだが、どこでどう爆発するかは想像に難くない。


 自暴自棄になったとしか思えないその魔法は、地上の静夜を狙っての物だ。自由落下していく爆弾を止める手段は、今は咄嗟に思いつかない。


「っとに、不愉快な奴だな。君」


 負けてしまうと解かって、この期に及んでする事がなんで嫌がらせなのだろう。全力で逃げればもしかしたらチャンスがあるかもしれないのに、まさか逃げない事に美学や理由でもあるのだろうか……? そんな美学も理由も思いつかないまま、ハジメはパチンと指を鳴らす。


 認識から一秒。まだ落下距離は十メートルに満たない。その間に二五六に及ぶ爆弾の把握を終えたハジメはそのすべてに介入し、衝撃を与え起爆を引き起こす。回収方法は咄嗟に思いつかなくとも被害の及ばない場所で破壊すればよい。という結論はすぐに出ていた。

 夜陰にオレンジじみた爆炎が輝き、空中の黒煙が広がり、爆風はジャージ青年の鬱陶しい前髪を逆立たせる。


「チートだ……なん……! もうっ! なんなんだよぉっ!」


 勢いをつけて大きく跳びあがったジャージ青年は柵を飛び越えるとまるで自害に至る事すら仕方がないと言うようにそのまま宙へと飛び上がった。まさか本当に飛び降りるとは思わなかったが、飛び降りた所でだから何だと言う話である。落ち着いて対処すれば、爆弾総数二五六個とは違って人一人くらいなら空中から元の場所に戻せるからだ。


 しかし、直後には思わず声を上げてしまう。


「――駄目だよっ!」


 声を上げると同時、白猫モドキのヘルが青年の服の襟を噛んで屋上に上ってきた。ビルの壁をジグザグに蹴ってヘルは地上からここまで翔けてきたのだ。そしてジャージ青年の落下を防いだ訳だが。


「君さぁ、今やっつけようとしたね? 駄目だよ? これ落ちたショックじゃなくて君が首引っ張った時の衝撃でこうなっているよね? ギリギリで首から襟に変えたの見てたよ? いいかい? 君がちょっと加減忘れて噛んだら人は死ぬんだ。そして私は人が死ぬのは……。死ぬのは、嫌なんだ。こら、聞いているかい?」


 ジャージ青年は完全に気絶していてハジメの目の間に捨てられる。その胸の上でお座りをするヘルの様子は、虫やトカゲを見つけて見せびらかす猫そのもので、なんだか可愛らしい。


「まったくもう。死んでないから今回は……、まぁよくやったね」


 しゃがみ込んでヘルの頭を撫でてやる。これは叱っているのであって、愛でている訳ではない。誇らしげに喉を伸ばして、目を細めるが許したわけではない。

 しばらくそうして撫でていると、黒猫モドキのメアも戻ってきた。その口に食わるのは随分禍々しい――無数の髑髏の彫金がされた血塗れの――トンカチ。


「うえぇ……」


 そのトンカチを見てハジメは引く。すごく引く。ドン引きだ。こびり付いた血から、もしかしてあのスキンヘッドの男は最悪の結果を迎えたのではと一瞬ドキリとするが、一旦大きく深呼吸して落ち着いて考えればたぶん大丈夫だと嘆息する。


 この猫モドキ達の性格から、殺したのなら死体なり首なり、持ち帰ってくることだろう。渾身のドヤ顔で褒めてくれと要求してくる姿が目に浮かぶ。

 

「それはいらないって」


 と血塗れのハンマーを拒否すると、メアは強烈なショックを受けたようで、無表情ながらの思案顔だ。


 そして少し考える様にしてからハンマーを咥えて宙へ飛ばすメア。ぽいっと捨てて、宙に浮いたハンマーに向けて破壊の魔法を込めた魔眼を仕様。血まみれの鈍器は灰に変わって風に消えた。そうしてからトコトコと窺うように歩み寄ると、何事もなかったかのように甘えた様子でハジメの膝小僧に顔をこすり付けてくる。


「……ごまかされないよ?」


 と言いながらもすり寄ってくるからにはメアも撫でてやる。こうして甘えている姿は猫そのもので、とても空中を駆けたり、強力な魔法を操ったりするようには見えないのだった。


 気が付けばささくれていた心が落ち着いていた。すっかり忘れてしまっていた気絶したジャージ青年は、改めて意識を向けてみても目を覚ますようすはない。


「熱っ! はぁっ!? ――甘咲無事かっ?」


 ドアノブが思い切りよく捻じられ、バンッと鉄扉が荒々しく開けられると、半ば怒鳴るような声がした。登ってきたのには気付いていたけれど、まさかそんな大声を出すなんてと思うし、声に驚いて振り向いてみれば酷く汗をかき、荒い呼吸の静夜がいた。

 

「……無事だとも。私が強いのは解っているだろ?」

「ああ……そりゃ解ってっけど、よ? ハァ……余計な心配だったらそらラッキーってなもんだ。あー疲れた」

「ふふっ心配してくれてありがとう」


 言うと、照れ臭そうに、掌をぷらぷら振るだけで返事する静夜。もう掌の火傷は消えていたのは流石である。


 暑そうに服の二の腕部分で顔の汗を拭う。もしかしてエレベーターを使わずに来たのだろうか。いや、エレベーターから屋上につながる短い階段を駆け上がるだけで静夜は消耗したのだろう。元の世界のハジメの基準で言えば、確かにそれだけでも十分疲れるだろう。

 ましてや静夜はついさっきまで死闘を繰り広げていたのだ。きっと上ってくるのだって億劫だった事だった筈だ。何一つその武勇伝を語らずただハジメの様子を気にする静夜は、大人なのだろう。


「……」

「こいつがさっきの爆発の原因かい。動かねぇんだが、死――気ぜ……つだな」


 一息ついた静夜が雑にジャージ青年の髪の毛を掴んで顔を確認した。そして、少し盗み見るようにハジメの顔色も窺ったように見える。


 心配してくれただけだろうけれど、もしかして、疑われたのだろうか? なんて少しもやっとした気持ちになってしまう。


「うん。殺しちゃいそうでひやりとしたよ」


 お道化た表情で言いながら、自分の事が判らなくなる。

 何故だろう。こんな風に言ったら怒るかもしれないと思いつつ、ついつい紛らわしい言い回しをしてしまう。もしも静夜がこれで怒ったら態度を改めよう。怒らなかったら、じゃあ調子に乗るのだろうか? それは違う筈なのだが……。


 無意味な勘違いをされて、静夜がハジメに引いて、人殺しを見る目で見てきたら? 愛想を尽かせてハジメを見捨てるのではないか? ゲームの中の静夜はそれを全て受け入れて抱擁してくるイメージだ。そんな事されたらハジメが逃げ出してしまいそうだけど。


 そんな事ばかりを咄嗟に考えているのだ。


 実のところずっと静夜を疑って、信用してもいいのかと試し続けている。

 ここまで世話になり、助けてもらっておきながら何様のつもりかと、自分の意思で試しているのに、同時に内心酷い自己嫌悪を抱いている。

 こっちの世界に来てから性格が変わってしまったのかもしれないと不安定な自分に嫌気が差しそうだ。


「あん? ……あー、その猫がか? 強そうだもんな」


 そんなハジメの、受け止めてほしくない挑発を上手くいなすのには、さすがに感謝しか浮かばない。


「……ふふっ。そう、とっても強いんだ。この子達はね」

「じつぁ俺もぶっ殺しちまいそうな時が結構あってよ。俺の場合ボロ負けかぶっ殺しかなんで、んっとぉに苦労するんだ」

「あ、静夜君の戦い方ってそういう感じだよね……」


 どこ吹く風の静夜。最後の台詞は余計な一言ながらに冗談だと解かる。そこまでちゃんと理解してハジメは笑みを浮かべる。


 相手の強さ、実力、脅威度、そんなものが明確に感じ取れる世界において、たぶん全くそういう物に気が付けない人がいるというのはそれだけで安心できる。しかも、静夜は明確な実力差というものに気が付いたところで同じように受け流してしまうのだろうと確信を抱ける。


 この人は、きっともっと、ずっと恐ろしい物に曝されてきたんだろう。ハジメの子供じみた挑発はどういう形であれ見透かされてしまうに違いないない。

 ちょっとした考え事していたら、静夜はこの沈黙をハジメ以上に深刻に捉えたのか、困り顔で嘆息をして見せる。そして言葉を続けてフォローを始めた。 


「……命狙われたんなら守るためにやり返すのも当然あるぜ。俺も法律も責めやしねぇよ。けどまぁ殺したくねぇって結論になったんなら――とりあえず殺さなけれりゃ取返しが付くことが多いし、何とかしてやれるかもしれねぇ」

「うん。ありがとう」


 素直に同意して、ハジメは静夜に嬉しい顔を向ける。


「……」

「……」


 二人が沈黙し、なんだから湿っぽくなってしまった気がする。年上の男性との会話に慣れていないハジメはどうしようと少し心を焦らせる。


 するとまたしても察してくれたのか、静夜が小さく微笑んで見せた。


「巻き込んじまって悪かったな……」

「ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ。なんて事なかったからね。あ、でもたぶん一人逃げられちゃった。怖い感じのつるつるハゲのオジサン」

「ま、問題ねぇだろ。逃げるようなハゲァ大体強くもねぇし」

「ハゲに厳しい」

「今時ハゲなんてなぁ趣味か坊さんかだよ」

「あ、そういう?」

「そう言うこった。転移者の一部が喜んでらぁ。とにかく髪を剃って威圧しておきながら逃げる奴はその程度だよ」


 ハジメが取り逃がしたことへのフォローとして、たぶん少し誇張している。でも、なんだか実感がこもっていそうとは思うのであった。


「やっぱ静夜君危ない事に慣れてるんだね?」

「いや。慣れちゃいねぇよ? ……ねぇって。なんでぇその目ぁ」

「慣れてないって無理がないかい? それとも世間と比較して慣れてないなら、実はこの世界は世紀末じゃないかな。もしくはゲームの中だ」

「いやぁ、信じられねぇかもしれねぇがよ、これでもこの世界ぁそんなに危険じゃねぇんだぜ? 戦争も最後に起きたのぁ三十年前だし、犯罪発生率は毎年低下して、検挙率は全世界でも右肩上がりだ。世界中の異世界人にアンケート取ったら地元より平和だって答えが脅威の八割越えるんだぜ」

「……うっそだぁ?」


 そう言って、ハジメは思わず吹き出してしまった。若しかしたら冗談なのかもしれないと、そんな風にすら思って、そうなら面白いとつくづく思う。今日一日だけでも十分思うのだ、ここはゲームの世界の様にスリリングに満ちた世界だと。


「いやマジでな?」

「うんうん。信じるよー」

「っかしいな。そんなに胡散臭いか?」

「ふふっ、あ、それにしても静夜君、あれって自分で考えた戦い方なのかい? あんな戦闘方法、奇人変人が多かったマホレコでも見た事ないよ。あったまおかしいよね? しかも本当に死者ゼロだし」

「あー、上手く殺さなくてよかったな。ありゃ相手が弱かったから運がよかったぜ」

「えー。あんなに格好つけて、運の話になっちゃうのかい?」


 嘘つきだ。相手の方が一人残らず静夜より強かった。戦い方は文字通り武器に頼った物。使った武器が尋常じゃなく強かったのだ。なにせオートマチックで実戦的殺人鬼の動きをするのだから。


 それで人が死ななかったのは静夜の努力に違いない。きっと驚異的な精神力で殺さない調整をしたのだ。あれに運がまぎれる要素はない。


 が、あえてハジメは話に乗った。


「運に任せて失敗しちまったら上手く誤魔化さねぇとだからたまにゃ努力しないとだぜ?」

「誤魔化す努力!? 台無し!」

「上手くやればなかった事に出来る。覚えとけよ?」

「こっそり私に悪い事教えないでくれないかい!?」

「失敗した時にする責任の取り方は謝るんじゃなくてどれだけ原状回復させるかだ。これ豆知識な?」

「いい事言っているけどさ? でも良い事言ったみたいな顔やめて?」

「へへっ……甘咲も困ったら俺に相談しろよ? 一回位ならなんとかしてやっから」

「悪い大人だなぁ……」


 まったくもぅ。そんな感じで腕組みをする。

 するろ今まで存在しなかった重みが腕に乗る。びくっとなって見下ろせば腕が見えない。代わりに見えるのはなんだか妙に膨らむ、少しだけブラが透けるティーシャツで。


 あっ、と今更気が付いて。


 しかしだから何だと顔を上げれば静夜と目が合う。ハジメの気付きに何も感じていない風を装う静夜だが……。


 残念ながら今のハジメの動体視力は絶好調だ。静夜がつられてハジメの胸を見ていた事を明白に見破った。男の人は、そういえばエッチなのが普通なのだから気を付けろと、律が言っていた。今までなかったおっぱいの質量が増えたのだ。しかも女のハジメでも思わず見てしまいそうな大きさだ。

 図らずもそれを自ら強調するような事をしてしまった。どこのエッチな写真だと言わんばかりのポーズである。慌てて手を下ろす訳だが、これでは静夜の視線が向いていたのは責められない。


 あ、これ少し気まずいかも。


 でも顔を赤くしたら負けな気がして何とか自律神経を制御してみせようとかまさに無駄な試みをするが失敗に終わる。


「どうしたんでぇ、いきなり難しい顔しちまって……やっぱ俺みたいな奴はこえぇかい?」

「あ、ちがうちがう」


 困り顔をしてしまった静夜にハジメは慌てて首を振ったのだった。


 そんな会話を楽しみながら、静夜がさっきまでいた銃撃現場を見下ろす。隣の静夜によるともう警察が来るらしい。というか、スモッグの中でも毒々しく煌めく夜景の中でも目立つパトランプが見えて、あらゆる喧騒を無視してサイレンが聞こえて、見えてきたという事は。


「……あ、きた」

「おっ? おっし、そんじゃ今日はこれで本当に解散だ。お疲れさん。また明日な」


 テロリストに命を狙われて、そんな事はなかったものであるかのような『また明日』とは。気軽すぎる静夜の台詞に、色々差し引いたとしてもこの世界はハジメの知る平和な日本より物騒だと確信しつつも、それを言及するのは野暮という物だろう。

 それはそれとして、また明日という言葉に様々な感情を覚える。目下、とりあえず、まずはこちらと質問を返す。


「あれ? 私も事情聴取とか受けなくていいの?」

「問題ねぇだろ? 全員俺がぶっ飛ばした事にしとこうぜ。甘咲ぁ今日はもう休んどけ。大した事にゃならねぇよ」


 絶対大した事だと思うのだけれど、静夜はハジメを追い払うように言う。ともすれば邪険な言い方であるが、その言葉には気遣いが隠れている。果たしてそれはハジメの色眼鏡なのかもしれないが、それでも言動に悪意がない事だけは、とても分かりやすく伝わってきていた。


「巻き込まれただけでヒーローインタビュー受けられる程世の中甘くねぇよ。どうしてもってんならもっと悪さをしてから日を改めてにしな」


 それでも少し悩むハジメに静夜はそう言って、さっさと開きっぱなしの扉の向こうの暗闇の中に静夜は消えていく。有無を言わせず階段を降りていく静夜の背中を見送って、無理に追いすがるのは不合理だ。そんな言葉が体の動きを鈍らせるくらいには、思考が疲れていた。本当は静夜について行くべきと思いつつ、静夜の甘言に甘えてハジメは嘆息一つ。空を見上げた。


 夜でも温い風が吹いている。このビルの屋上からではまだ空は見えづらい。本当にこの世界の空は小さくて四角い。

 目を閉じたらそのままでいたい気分になってしまい、嗚呼本当に疲れているんだなと。


「……今日はお言葉に甘えるとするよ」


 こうして激動過ぎた異世界生活の一日は終わりを迎えたのだった。


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