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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 27


 笹月のねっとりとした、嫌味交じりの質問がハジメにむけて続けられた。

 時折静夜が口を出すが、ゲームに似た世界だとか、まだこの世界に慣れていないとか、素直にハジメは答えていく。


 九龍大迷宮の底から登ってきて、安全エリアを観光気分でのんびり歩いたハジメは、近所でとてつもない不吉を感じて、静夜たちと出会ったと語る。

 彼女程の実力者が本当に不吉を感じたかは、彼女のみぞ知るが、それくらいは話の整合性としてむしろ必要な装飾だろう。


「それでは、弓代さん達を偶然助けたと。よく偶然その場に居合わせましたねぇ」

「逆にどうやって狙うんだよ? 化け物が現れそうだからここにやってきた? だったとしてそれが現実になるのぁ結局偶然だろ。まさか化け物を作ったのが甘咲だとか寝ぼけるなよ?」


 思わず静夜は笹月にかみつく。

 これを援護するように古御堂も口を出す。

 

「シキは本当に命を助けられたな」

「ハジメ格好良かった」


 口々に言うと、聞いたハジメは少し照れ臭そうだ。それを見渡して笹月は鷹揚に頷く。


「はい。後で別の人間が事実確認をするでしょうが、善性は理解しましたよぉ。では、元の世界戻りたいだろうという笹月の認識はあっていますかねぇ?」

「……合っているよ」

「多くの転移者の皆さんは、元の世界に辟易してますがねぇ。ねぇ、甘咲さん向こうに残してきた人でもいるんですか?」

「えっ……」

「それともぉ、好きな男でもいましたか?」


 果たしてそれは、必要な質問だろうか? セクハラで、越権なのではないだろうかと、静夜は眉を顰める。


「……いたよ。気になる男の子は。片思いかな。だから、戻りたい」

「戻って、告白をしたいので? それが、戻りたい理由ですかぁ?」


 独特の、ねっとりとした口調の質問は、どこか人の心を騒めかせる音色である。

 一瞬言いよどむハジメ。息を整える様に呼吸が深くなる。


「笹月さんよぉ。今のその質問は必要だったかい?」

「ええ、必要ですよぉ。戻りたい理由があるのと、ないのとでは、モチベーションが違いますからねぇ」

「そうだね。何も言えないまま、私はここにいる。だから戻りたい。これでいいかい?」


 怒りとは違う。

 羞恥とも違う。

 表情を消したハジメ。

 大切な物を無理矢理曝け出さされたハジメの感情はいかほどの物だろう。


「はい。十分で、満足な返答です。戻れるといいですねぇ」

 

 にこやかに笹月は言う。古御堂がその表情を苛立たしそうに見る。

 もちろん、古御堂でなくとも、静夜と言えどもさすがに解る。欠片も思っていない事を言っているのだと。

 その場の空気がぴりつき、非常に息苦しい。ただ一人、笹月だけは全く気にした様子もなく暢気に笑みを浮かべていた。


「ああ、思いつきましたよぉ。そんな戻れるかどうか解らない甘咲さんにですねぇ。プレゼントです」


 笹月は、見せつける様に掌を掲げ、手首を翻す。

 そのしぐさに連動するように、何もなかった空中に金属質の小箱が現れる。

 リンゴが落下するように、小箱は笹月の掌の中にストンと落ちて収まった。

 

「時空の魔法をご存知でしょうかぁ? 距離と時間を自在に操るんです。この箱の中は疑似的な無限の空間ですです。おっと、魔術ではないので再現できませんよぉ? 無駄な努力をしたいのならおすすめ是非自分の無能を実感してみてくださいねぇ」


 その小箱は笹月の言動に似つかわしくないくらいに美しく、その手から消滅するようにほろほろと空気に溶けていく様子すら映像作品の様である。

 やがて、箱がなくなった笹月の掌には、一冊の本が現れていた。


「笹月が書いた訳じゃないですからねぇ。何が書いてあるかは知らないんですが、異世界についての考察を記した本です。差し上げますよぉ」


 手渡そうとして、ハジメの反応が鈍い物だから肩をすくめて机の上に本を置く。オレンジ色の布張りの装丁の本は、少し埃を上げた。


「少し突き過ぎましたかねぇ。とりあえず、笹月は自分の仕事を全うしますよぉ。ご安心を」

「ったく、どうしてくれんだよこの空気感……。そんで? お前さんが言う質問ってなぁお終いかい?」

「え? ああ、あと一つだけ」


 間違いなく、この男は既に質問などどうでもいいと思っている事だろう。そうなると初めからどうでもよかったようにも思える。いったい何が目的だったのか、まさかハジメにケチをつけるためだけに来た訳でもないだろう。目的は一切わからないが、それでも、話が終わるならそれを終わらせたいので早く言ってもらいたいものだ。


「甘咲さん。私たちが用意する施設に入るつもりはありますかぁ? 転移者の皆さん、初めはお金を持っていないですからねぇ?」

「入らないとダメかい?」

「出来れば。野宿は厳禁ですよぉ」

「ホテルならもうとってるよ。ついでに金ならくれてやるほどもってらぁ」


 静夜が口を出す。

 ハジメがちょっと目を見開いて、静夜の顔をまじまじと見る。


「貸してやるだけだ、だから心配すんなって」

「ごめ――いや、ありがとう。そういう訳でお金の心配はいらないから、そこは遠慮したいな」

「……連絡さえ取れればどこでも構いませんよぉ。携帯電話持ってます?」


 ハジメが、静夜から渡されたスマートフォンを小さく見せつけて、小さく振ってみせる。


「はい。では後は、保証人がいれば言う事なしですよぉ」


 まさかそれまで? と静夜に挑発的な目を向けて来る。その顔がムカつくので、静夜はさらに口をはさむ。


「それも俺だ。俺が保証人だよ。お前さんのご同輩に当たる魔導省御用達だぜ? 文句ぁねぇだろ」

「……いいのかな?」

「それが出来る男を頼ったんだろ?」

「好きな人がいるのに、他の男を頼りますかぁ? 意外ですねぇ。男っぽい顔ですし、そこらの男のように顔がよければ誰でもいい。とかですかねぇ」


 面白い事を言っているかのように、笹月はハジメの事をあざ笑う。

 露骨な挑発と侮蔑は何を求めてのものか。

 それでもハジメは今、静夜を頼るしかできない。それを拒否したらハジメの今後が成り立たない。

 だからハジメは言い返す事も出来きず、黙って奥歯を噛みしめる事しかできない。

 静夜も保証人を取り下げる訳にもいかず、とっさには言葉も出てこない。


「鯨介、これ大嫌い」

「……」


 黙っていたシキが笹月をぴっと指さして言って、古御堂が大きな掌でシキの口を塞ぐ。


「俺も嫌いだが、少し静かにしような」

「シキ、後でアイス買ってやるよ。ってな訳で、問題ねぇな電話番号はこれだ。持ってきな」


 レシートの裏側をメモ代わりに、雑に書かれた電話番号を、笹月の胸ポケットに差し込む。


「はいはい。確かに頂きました。それと弓代さんの電話番号も必要です。ああ、口頭で言っていただければけっこうですよぉ」


 ポケットに押し込まれたレシートを摘まみだし、笹月は二秒ほど眺めるとぽいっと、ひらひらと、床に捨ててしまう。


「……いいでしょう。管理できないかもしれない危険物ではある。しかしまだ可及の急ぎでの処分は必要ない。これでいったんの手を打ちましょう」


 笹月はじっとりとそう語った。


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